災害時に活用できるOTC医薬品リストを作成 日本医薬品情報学会

 災害時に活用できる一般医薬品(OTC医薬品)56品目の医薬品集を、日本医薬品情報学会の課題研究班(代表:鹿村恵明・東京理科大学薬学部教授)が取りまとめた。

■OTC医薬品 初期症状を訴える被災者に活用

 東日本大震災から6年が経過した。同研究班によると、災害支援において、医薬品の供給は欠かせないものであるが、実際の災害現場では、やみくもに医薬品が送られたり、それらの分類に手間がかかりすぎたりするため、支援物資としての医薬品が有効に活用されていないという報告がある。

 一方で、災害時における一般用医薬品(OTC医薬品)の活用は、初期症状に対応して悪化を防ぐとともに、巡回医療班の負担軽減にもつながる。

 こうした課題を解決するため、災害医薬品の標準化やリスト化を提唱し、事前にその対応策を考えておくことは重要だという。

 今回選定したOTC医薬品は、日本薬剤師会作成の「薬剤師のための災害対策マニュアル」を中心に、同じく同会作成の「薬局・薬剤師の災害対策マニュアル―災害時の救援活動と平時の防災対策に関する指針―」、JMAT(日本医師会災害医療チーム)携行医薬品リストVer1.0などを参照し、研究班内で検討した。

 最終的に災害時対応OTC医薬品として選定されたのは56品目。該当する商品が複数ある場合には、販売量が多いものが優先された。

■災害時には飲料水が不足、活用できる医薬品も限られる

 OTC医薬品の選定では、消毒薬やかぜ薬などの基本的な医薬品に加えて、災害支援活動の体験から、発生する埃への対応としての点眼薬の必要性、ワセリンは傷への対処法以外にも保湿目的や日焼け後の肌にも使用することができて有用性が高いこと、ビタミンB1不足により脚気になる人がいるため必須である点などがアドバイスされたという。また、デング熱への対応として防除用医薬部外品である蚊取り線香も追加された。

 選定された56品目は、日本医薬品情報センターが発行する一般用医薬品集の大分類で「精神神経用薬」11品目、「消化器官用薬」10品目、「呼吸器用薬」7品目、「滋養強壮薬」1品目、「アレルギー用薬」2品目、「外皮用薬」12品目、「眼科用薬」6品目、「歯科口腔用薬」1品目、「漢方・生薬製剤」3品目、「公衆衛生用薬」3品目。

 これらOTC医薬品の医薬品集には、「大分類」「薬効分類」「商品名」「効能・効果」「用法・用量」「相互作用」「災害時の利用法」「成分」「剤形」「選定のポイント」「対応する医療用医薬品(類似薬を含む)」「使ってはいけない人・使用上の注意」を記載。さらに妊婦・授乳婦に対する注意喚起が必要なものにはその情報も付記した。

 災害時対応OTC医薬品の基本方針は以下の2点。
(1)重篤な疾患の人(腎不全など)は医療チームの関与が適切であると考え、あくまでOTC医薬品で対処できる範囲である軽度の体調不良の方を対象とする。
(2)可能な限り、医療用医薬品の代替ができる商品を選定する。

 医薬品の選定した際のポイントは次の通り。
(a)飲料水の不足への対応
 被災地では飲料水が不足する状態にあることが多く、水が貴重であるため服薬しないケースもある。したがって、水なしで飲める口腔内崩壊錠やフィルム状製剤が優先的に選択された。
(b)本来の目的以外にも使用できる医薬品の活用
 災害時は現地にある医薬品を最大限に利活用することが重要となる。そのため、本来の目的以外に使用できる医薬品の用途についても考慮した。たとえば便秘薬であるグリセリン浣腸は冬期に保湿剤(あかぎれ対策)としても使用することが可能だ。

■「災害時対応OTC医薬品情報提供カード」も作成

 今回選定した個々の商品について、ガスター10S錠やブスコパンA錠、アレグラFXなどは認知度も高く、医療用医薬品と同一の成分・含有量となっており、医療用医薬品が不足した場合には、代替薬として使用することも可能だという。

 作成した「災害時対応OTC医薬品集」は、おもに薬剤師向けの情報だが、被災地に災害支援の薬局薬剤師がいるとは限らず、OTC医薬品の取り扱いに慣れていない薬剤師(病院薬剤師など)や登録販売者、あるいは被災者自身でも判断ができるような医薬品情報も必要となる。

 そのため、個々の医薬品ごとに「災害時対応OTC医薬品情報提供カード」も作成した。これらは、医薬品を供給する側と被災地で活動する薬剤師、医療従事者、使用する被災者との共通のツールとなることが期待される。

 カードには医薬品集の情報以外に商品の外箱、剤形の写真も追加。さらに「水なしで飲める」「同成分(医療用医薬品の代替になる)」「妊婦OK」などの注意を促すために視覚記号の1つであるピクトグラフ16種類を作成して個々の医薬品情報提供カードに掲載した。今後、研究班では都道府県薬剤師会や地域行政機関、企業などにこの医薬品集の周知を進め、実際に運用につなげたい考えだ。

日本医薬品情報学会

記事提供:日本医療・健康情報研究所