「薬剤耐性」(AMR)問題を知ろう AMR対策アクションプランで啓発を開始

 抗生物質(抗菌薬)が効かなくなったり、細菌が薬剤に対して抵抗力をもつように変化する「薬剤耐性」(AMR)は、日本を含め世界で取り組まなければならない課題だ。政府は「AMR対策アクションプラン」を打ち出した。

薬剤耐性(AMR)は喫緊の課題

 近年、抗生物質(抗菌薬)が効かない感染症が国内外で増えている。体内に感受性菌と耐性菌が両方ある状態で抗菌薬を投与すると、耐性菌のみが残って薬剤耐性を拡大するおそれがある。抗菌薬は、感染症の治癒の改善などに大きく寄与している一方で、使用量が増大していくにつれ、「薬剤耐性」(AMR)の問題をもたらしてきた。

 日米欧など主要7ヵ国(G7)の会議で2015年に、今後何も対策を取らなかった場合、2050年までにAMRを獲得した病原体によって世界で1,000万人が死亡するという予測が公表された。この数字は、現在820万人とされるがんによる年間死亡者数を超えている。WHOは全ての参加国に対し国家行動計画(アクションプラン)を定めることを求めており、日本も2016年に「AMR対策アクションプラン」を打ち出した。

風邪には抗菌薬を使わないことを推奨

 厚生労働省は、薬剤耐性(AMR)対策のために、2016年に公表した「抗微生物薬適正使用の手引き 第一版」のダイジェスト版を9月に公開した。「手引き」は抗菌薬の適正使用を進めることを目的としており、第一版では外来で多い急性気道感染症と急性下痢症に焦点を当て、それぞれ抗菌薬を投与すべきではないケースを具体的に紹介している。

 ダイジェスト版は、手引きのポイントを分かりやすくまとめたもので、▽急性気道感染症、▽急性下例症、▽患者・家族への説明―の3部で構成されている。例えば、急性気道感染症の診断・治療の手順のチャートでは、気道症状があった場合で、急性鼻副鼻腔炎(鼻症状がメイン)が起きている場合、軽症では「抗菌薬投与を行わない」ことを推奨。中等症または重症に対してのみ「抗菌薬投与を検討する」ことを推奨している。

 急性気道感染症については、「患者が『風邪をひいた』といって受診する場合、その病態が急性気道感染症を指しているのかを区別することが鑑別診断のためには重要」と指摘。「肯定的な説明を行うことが患者の満足度を損なわずに抗菌薬処方を減らし、良好な医師-患者関係の維持 ・ 確立にもつながる」としている。

必要のない患者に「念のため」に抗菌薬を処方

 厚生労働省によると、日本は抗菌薬の使用量自体は多くないが、幅広い菌に効く特定の抗菌薬が使われており、必要のない患者にも「念のため」に処方するケースが少なくないという。抗菌薬の使用量を2020年までに3分の2に減らすことを目標とした行動計画を同省は策定している。

 患者・家族に説明する際は、肯定的な説明を行うことが患者の満足度を損なわずに抗菌薬処方を減らし、良好な医師-患者関係の維持・ 確立につなげられるとしている。また、「急性気道感染症、急性下痢症の大部分は自然軽快する」といった適切な情報を提供するよう求めている。このダイジェスト版は、厚生労働省のサイトからダウンロードができる。

国民の認識の向上も必要

 薬剤耐性(AMR)を防ぐには、抗菌薬を乱用せず、適切に使用することが欠かせない。薬剤耐性に対策するために、国民の認識の向上も必要だ。しかし現状では、国民のおよそ半数弱がAMRに関して誤った知識をもっており、また患者が自身の判断で抗菌薬を使用するケースが一定数あることが分かった。

 国立国際医療研究センターは「国民の薬剤耐性に関する意識についての研究」を行い、今年5月に報告書を公開した。国民を対象にした薬剤耐性(AMR)に関するはじめての意識調査で、全24問のアンケートを実施し、3,390人から回答を得た。

 それによると、「抗生物質はウイルスをやっつける」「風邪やインフルエンザに抗生物質は効果的だ」の設問に対して、「正しい」と回答したのは、それぞれ 46.8%、40.6%だった。自らの判断で治療中の抗生物質を途中でやめたり、飲む量や回数を加減したことがあるという人は76.4%。「自宅に抗生物質を保管している」人は11.7%に上り、そのうち「自宅に保管している抗生物質を、自分で使ったことがある」と回答した人は75.8%に上った。

 一方、医師や薬剤師、新聞やテレビなどから「不必要に抗生物質を飲んではいけない」という情報を得た場合、「抗生物質が必要だと思うときには、医師に相談するようになった」と44.5%の人が回答した。このことから報告書は「正しい知識を得ることで思考・行動変容につながることが示唆され、国民に向けた普及啓発による効果が期待される」とまとめている。

AMR啓発サイトを公開

 日本でも「薬剤耐性対策アクションプラン」が進められている。国立国際医療研究センターのAMR臨床リファレンスセンターはAMR啓発サイト「かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~」を9月に公開した。国内初の取り組みで、一般と医療従事者のそれぞれに向けてAMRについての基本的な情報を伝えている。



 医療従事者向けのコーナーでは、▽耐性菌が発生する原因、拡大の要因、▽サーベイランス結果や新薬の開発状況、▽海外でのAMR対応、▽院内感染対策――などを取り上げている。

 抗菌薬の投与により患者の病状の改善をはかれる一方で、薬剤耐性菌が発生するおそれがあることを指摘。耐性菌で入院期間が延長した場合、医療経済的にもコストが増えるとしている。

AMRに関するインフォグラフィックを公開

 一般向けのコーナーでは、AMRに関するインフォグラフィックを公開している。インフォグラフィックとは、情報を視覚的に示し、図解にひと工夫を加えることで、認知度の低い対象の興味を引き出す工夫をこらした表現方法だ。

 一般でできる薬剤耐性予防として、(1)抗菌薬は医師の処方が必要、(2)医師の指示通り飲みきる、(3)取っておいて後で飲んだりしない、(4)抗菌薬を人にあげない、もらわない、(5)分からないことは医師や薬剤師に聞く、(6)手洗い、うがいなどで感染症を予防する――を紹介している。公開されているインフォグラフィック「知ろうAMR、考えようあなたのクスリ 薬剤耐性」のPDFは誰でもダウンロードすることができる。

 国民に向けた啓発活動はまだ始まったばかりだが、この取り組みが功を奏すれば、不要な抗菌薬を求めるのをやめ、適正な使用を心掛ける患者は増えていくと考えられる。

国民の薬剤耐性に関する意識についての研究(厚生労働省研究成果データベース)
「抗微生物薬適正使用の手引き 第一版(ダイジェスト版)」を作成しました(厚生労働省 平成29年9月29日)
薬剤耐性(AMR)対策について(厚生労働省)
かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~(国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター)

記事提供:日本医療・健康情報研究所