子宮頸がんワクチンの有効性を強調「理解と判断を」 厚労省がリーフレット
厚生労働省は、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)感染を防ぐワクチンの定期接種について新たなリーフレットを公表した。日本産科婦人科学会や、医師でジャーナリストの村中璃子さんは、HPVワクチンの接種勧奨の再開を求めている。
ワクチンを接種すれば10万人当たり859~595人の患者を減らせる
日本では年間約1万人が子宮頸がんを発症しており、約2,700人が死亡している。2016年に国立がん研究センターから発表された部位別のがんの死亡率変化のデータによると、子宮頸がんのみが過去10年で9.6%増とその増加が加速している。
厚生労働省が公表しているリーフレットは、専門家部会で審議された内容が盛り込まれ、「接種を考えている人用」「接種を受ける直前用」「医師用」の3種類ある。ワクチンは子宮頸がんの主な原因ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症を予防するため、呼称を「HPVワクチン」に統一した。
2013年4月に国によって、小学6年生から高校1年生までの女性を対象に定期接種化されたHPVワクチンは、がん予防の効果が期待される一方、接種後に広範な慢性の疼痛などの多様な症状がみられたため、2ヵ月後の6月に積極的勧奨の差し控えが実施された。
その後、専門家による研究班が原因を調査し、厚生労働省はこれまでの結果をホームページで公表した。それによると、HPVワクチンを接種すれば10万人当たりで859~595人が子宮頸がんになるのを回避でき、同209~144人が子宮頸がんで死亡するのを防げるという。海外の疫学調査では、HPVワクチン導入により、導入前後で、HPV感染率が51.7~62.6%減少し、また、子宮頸部異形成の頻度が47.0~59.2%減少したと報告されている。
HPVワクチンの副反応の因果関係も否定できない
一方で、局所的痛みやめまい、失神、しびれなど、副反応の疑いのある報告が、昨年8月までに3,130人(10万人当たり92人)あり、翌月までに因果関係が否定できないとして295人(同8人)が国の救済制度の対象とされたことも示した。
リーフレットでは、HPVワクチンは予防効果が期待できる一方で、一部の症状については「ワクチンを接種した後や、けがの後などに原因不明の痛みが続いたことがある方はこれらの状態が起きる可能性が高い」としている。
日本の救済制度の基本的な考え方は「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も救済の対象とする」というものだ。なお、HPVワクチン接種歴のない女性でも、接種後に報告されている症状と同様の症状を有するケースが一定数存在したことが明らかになっている。
厚生労働省研究班による「青少年における疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状の受療状況に関する全国疫学調査」によると、ワクチン接種歴のない12〜18歳の女子においては人口10万人当たり20.4人の頻度で症状を示し、接種歴のある女子においては人口10万人当たり27.8人の頻度で症状を示すと推計された。
厚労省はリーフレットをホームページで公開し、今後、市町村などに配布する。情報をよく確認したうえで、接種を検討してほしいと呼びかけている。ワクチンの有効性とリスクを国民に理解してもらったうえで、勧奨再開の是非を判断したいとしている。
「HPVワクチンの接種勧奨の再開」を求める声
HPVワクチンについては、厚生労働省研究班(研究代表者:祖父江友孝・大阪大学教授)が2016年に、全国疫学調査結果を報告した。そこではHPVワクチンと関係なく、思春期の女性に、疼痛や運動障害などワクチン接種後に報告されている多様な症状を呈するケースが相当数いることが確認された。
日本産科婦人科学会は、「子宮頸がんは、現在、女性の74人に1人が罹患し、340人に1人が子宮頸がんで死亡しています。本会は、将来、先進国の中で我が国においてのみ多くの女性が子宮頸がんで子宮を失ったり、命を落としたりするという不利益がこれ以上拡大しないよう、国に対して、一刻も早くHPVワクチン接種の積極的勧奨を再開することを強く求めます」と声明を発表した。
世界保健機関(WHO)は、「先進国では日本だけにみられる状態。日本のみ多くの女性が子宮頸がんで子宮を失ったり、命を落としたりするという不利益が、これ以上拡大しないよう、HPVワクチンの接種を推奨する」と発表。
村中璃子さん「日本では3,000の命と1万の子宮が失われている」
国際的な総合科学ジャーナル「ネイチャー」は2017年11月、HPVワクチンの安全性を検証してきた医師でジャーナリストの村中璃子さんを表彰した。村中さんが受賞したのは、公共の利益のために科学や科学的根拠を広めることに貢献した人を表彰する「ジョン マドックス賞」。25ヵ国の100以上の候補者の中からの選出で、日本人ではじめての受賞となった。
「ネイチャー」は、HPVワクチンについて「子宮頸がんなどを防ぐ鍵として、科学界や医療界で認められ、WHO(世界保健機関)に支持されている」と評価。そのうえで、「日本では、このワクチンの信頼性を貶める誤った情報にもとづくキャンペーンが展開された。その結果、接種率は70%から1%未満に落ち込んだ」として、日本の現状を厳しく批判している。
村中さんは「日本では毎年、3,000の命と1万の子宮が失われている」「科学的根拠に乏しいオルタナティブファクトが、専門的な知識をもたない人たちの不安に寄り添うように広がっている。私は医師として、守れる命や助かるはずの命を危険にさらす言説を見過ごすことはできない。書き手として、広く真実を伝えなければならない」とコメントしている。村中さんは書籍『10万個の子宮──あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか』を2018年2月に刊行する予定だ。
ヒトパピローマウイルス感染症(HPVワクチン)(厚生労働省)
【HPVワクチンに関する情報提供について(2018年1月18日)】
・ HPVワクチンの接種を検討しているお子様と保護者の方へ
・ HPVワクチンを受けるお子様と保護者の方へ
・ HPVワクチンの接種に当たって 医療従事者の方へ
HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種の早期の勧奨再開を強く求める声明(日本産科婦人科学会 2017年12月9日)
記事提供:日本医療・健康情報研究所