「ベジファースト」で肥満・メタボ対策 東京・足立区の取り組みが奏功

 東京都足立区が糖尿病対策に力を入れている。野菜から食べ始める「ベジファースト」を、糖尿病リスクの高い成人に推進しているだけでなく、学校や保育園・幼稚園で、子どもや家庭にも浸透させようと対策している。

「ベジファースト」の効果? 野菜の摂取量が増加

 東京都足立区が糖尿病対策に力を入れている。区民の健康寿命は、男性 77.5歳、女性 82.3歳で、都平均より約2歳短い(2015年調査)。その一因となっているのは、偏った食生活などが引き起こす2型糖尿病などの生活習慣病だ。

 足立区は「糖尿病に関わる医療費」が23区ワーストだ。被保険者1人あたりの糖尿病の医療費は都平均が828円なのに対し、区は1,091円(2016年調査)。糖尿病が区民の健康寿命を短くしている最大の要因となっている。

 こうした現状をふまえ、「糖尿病対策」に重点を絞り、区民の生活の質(QOL)を向上させ、健康寿命の延伸と医療費の抑制を目指すため、「糖尿病対策アクションプラン」を策定した(2014年に一部改定)。区民に糖尿病が多いこと。そして糖尿病対策で重要な野菜の摂取量を増やすこと。この2つを打開するため、「あだちベジタベライフ~そうだ、野菜を食べよう~」を掛け声に、野菜が食べやすくなる環境づくりを進めている。

 その成果が出て、2015年の調査では、区民が1日に摂取する野菜の量が、一昨年に比べて13g増えた。これはミニトマト1個分に相当する。区の人口は69万人。区民が毎日この量の野菜を食べ続けると、経済波及効果は年間6億円になるという。

食事スタイルの改善を小児期から始める

 区では子どもの肥満対策にも力を入れており、このほど「足立区子どもの健康・生活実態調査」の結果をまとめた。調査は、区教育委員会、東京医科歯科大学、国立成育医療研究センター研究所と共同で行ったもの。

 「肥満は2型糖尿病の原因になり、動脈硬化から心筋梗塞、脳卒中のリスクを高めます。動脈硬化は子どものころから進行します。また、子どもの肥満は成長してからも影響が大きく、とくに年長児が肥満であると、大人になってから肥満に移行しやすい。生活習慣が定着してしまう前、つまり小児期からの対策が重要です」と、足立区こころとからだの健康づくり課では述べている。

 「食物繊維が豊富に含まれる野菜から食べることで、血糖値の急上昇を防ぎ、インスリンの分泌を抑え、2型糖尿病や肥満の予防・改善につながります。幼児期から”一口目は野菜から”と呼びかけることで、健康寿命の延伸をはかつています」と強調している。

子どもの肥満が改善 小1対象の調査で

 区の調査によると、今年度の区立小学校1年生のうち肥満傾向にある児童の割合は男女ともに4.5%で、2015年度に比べ男子は0.2ポイント、女子は0.9ポイント、それぞれ改善した。「足立区では学校や保育園・幼稚園でも、野菜を最初に食べる”ベジファースト”を推進していることが成果に結びついている」と、区では述べている。

 調査は、区立小学校1年5,160人を対象に行い、4,208人から有効回答が得られた(有効回答率81.6%)。調査によると、「野菜から食べる」と答えた児童は15.8%で、2015年度の11.5%より4.3ポイント改善した。「野菜から食べる」と回答した足立区立の保育所の児童では、肥満傾向は2.5%で、「それ以外から食べる」と答えた7.2%より4.7ポイント低かった。

家庭の環境も大きく影響

 子どもの肥満傾向には家庭環境も大きく影響している。調査では、保護者の調理技術が低いと、子どもの肥満傾向の割合が高いことが分かった。家庭で保護者が「野菜や果物の皮をむく」「野菜や肉の炒め物をつくる」「味噌汁をつくる」「煮物を作る」といった調理をよく行っていると調理技術が高いとみなした。

 その結果、肥満傾向児の割合は、保護者の調理技術が高いと4.4%にとどまったが、低いと6.9%に上昇した。また、問題行動が多く、逆境を乗り越える力(レジリエンス)にも影響することも分かった。子どもの発達障害や行為障害などをはかる指標であるSDQで判定したところ、保護者の調理技術が高いとスコアは69.5だったが、低いと55.7に低下した。

家庭で調理される食事が大切

 東京医科歯科大学国際健康推進医学分野の藤原武男教授らは、調査結果を分析して、「家庭で調理された食事を食べている子どもは、肥満傾向が少ないだけでなく、メンタルヘルスも良い傾向があることが分かりました」と述べている。子どものメンタル面での強さや困難さをはかる指標となる「SDQ」で解析したところ、家庭で調理することで指標が高まり、肥満予防につながることが分かった。

 「家庭での調理技術が高いと、野菜の摂取頻度が高まるからだと考えられます。親の調理技術を高めるような政策によって、家庭で調理する機会が増えれば、結果として子どもの健康が守られる可能性があります」と、藤原教授は指摘する。

 すでに区では保育園、小学校、中学校で調理技術を教える教育に取り組んでいる。これによって足立区の学校を卒業した子どもたちが親になったときに、「ベジファースト」を実践しやすくなる。

地域イベントの参加が運動習慣を高める

 調査では、子どもの就寝時間が遅い、朝食欠食、運動不足、登校をしぶるなどメンタルヘルスの悪化が強く相関していることも明らかになった。「早寝・早起き・朝ごはん」の生活リズムの定着させるためには、個人に改善を促すアプローチだけでは限界がある。より良い生活習慣が自然と身につくような環境面の整備といったアプローチが必要だ。

 運動習慣を身につけさせるためにも、子どもの頃の環境整備が必要だ。調査では、地域活動(近所のお祭り・子ども会・児童館等の教室など)に参加している子どもは、運動習慣があったり、逆境を乗り越える力が高いなどメンタル面でも良い効果があることが分かった。

 「”地域でのイベント参加”が子どもの運動習慣を高める点に着目し、子どもと地域とのつながりを増やす取組みをさらに推進するべきです。地域イベントへの参加が親以外のロールモデルにふれる機会や、新しい遊びとしての運動にふれる機会となり、運動習慣が高められる可能性があります」と、藤原教授は述べている。

子どもの健康・生活実態調査(東京都足立区)
足立区は糖尿病対策を推進します~もっと笑顔、もっと長寿 あだち元気プロジェクト(東京都足立区)

記事提供:日本医療・健康情報研究所