魚のオメガ3系脂肪酸が「不安症状」を軽減 魚を食事療法に活用
糖尿病患者の多くが不安を抱えている。また、魚は悪玉のLDLコレステロールを増やさず、中性脂肪を減らすなど、糖尿病の食事療法でも勧められる食材だ。
不安は多くみられる症状 魚を食べると改善
不安はもっとも多くみられる精神症状で、生涯において何らかの不安症状を抱える人はおよそ3人に1人に上る。不安は生活の質や社会機能を低下させ、死亡リスクの上昇にもつながる。
がん患者さんの多くが「不安」と「落ち込み」を経験している。また、糖尿病とともに生きる人も、「糖尿病による合併症は怖い」(73%)、「低血糖を起こしたくない」(49%)などと、多くが不安を抱えていることが調査で示されている。
不安や心の負担に対処することが、がんや慢性疾患の医療におけるまだ満たされていないニーズのひとつだと指摘されている。
青魚に多く含まれるオメガ3系脂肪酸を摂取すると不安症状が軽減することが明らかになった。とくに身体疾患や精神疾患などの臨床診断を抱えている場合に、その効果が高いという。
研究は、国立がん研究センター 社会と健康研究センター健康支援研究部長の松岡豊氏、台湾の中國醫藥大學醫學院生物醫學研究所の蘇冠賓教授、文信診所の曾秉濤氏らの共同研究グループによるもの。詳細は米国医師会雑誌(JAMA)系列のオープンアクセスジャーナル「JAMA Network Open」に発表された。
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オメガ3系脂肪酸を摂取すると不安症状が改善
不安症を治療法するために、一般的に「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」などによる薬物療法や、「認知行動療法」が行われているが、前者は鎮静や依存などの副作用が懸念され、後者は治療にかかる時間、費用、そして治療者の不足などが課題となっている。
身体疾患を抱える人の不安をやわらげる、科学的根拠にもとづく安全で簡便な対策が求められている。
近年、青魚に多く含まれるオメガ3系脂肪酸の摂取と不安症状の改善について調べる研究が増えており、オメガ3系脂肪酸の抗不安効果への関心が高まっている。
マウスを使った実験でも、オメガ3系脂肪酸の比率が高いエサを習慣的に食べさせると、恐怖体験が惹起する怖いという感覚(恐怖記憶)がやわらぐという結果が出ている。
代表的なオメガ3系脂肪酸には、植物由来のα-リノレン酸、海洋由来のエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)がある。
アジ・イワシ・サンマ・サバなどの青魚にはオメガ3系脂肪酸が多く含まれる。
オメガ3系脂肪酸を2000mg以上摂取すると効果
研究グループは、青魚などに含まれるオメガ3系脂肪酸の抗不安効果について、計2,240人の不安症状を抱える人を対象とした19件の臨床研究をメタ解析して調べた。
2018年3月までに公表された研究論文を、▼ヒトを対象とした臨床試験(ランダム化・非ランダム化)であること、▼同分野の研究者などによる査読を経た論文のみが載るピアレビュー誌に掲載されている、▼対照群はプラセボ使用の有無について問わない、▼対象は健常者、精神疾患患者、身体疾患患者――という基準で選出しメタ解析した。
対象となったのは、オメガ3系脂肪酸を摂取する群1,203人(平均年齢43.7歳)、摂取しない群1,037人(同40.6歳)で、オメガ3系脂肪酸の平均摂取量は1,605.7mg/日だった。
解析した結果、オメガ3系脂肪酸を摂取した群はオメガ3系脂肪酸を摂取していない群と比較して、不安症状が軽減されることが明らかになった。効果量は0.374(0.2は小さい、0.5は中くらいと解釈される)。
オメガ3系脂肪酸を1日に2,000mg以上摂取した場合に抗不安効果がみられたいう。また、層別化した解析の結果、身体疾患や精神疾患などの臨床診断を抱えている人を対象にした場合に抗不安効果が大きいことが示された。
「今後は、オメガ3系脂肪酸の摂取量を2,000mg以上に設定し、身体疾患や精神疾患などの臨床診断を抱える人を対象にした大規模な臨床試験を実施し、オメガ3系脂肪酸による抗不安効果を検証することが期待される」と、研究者は述べている。
国立がん研究センター 社会と健康研究センター
Association of Use of Omega-3 Polyunsaturated Fatty Acids With Changes in Severity of Anxiety Symptoms: A Systematic Review and Meta-analysis(JAMA Network Open 2018年9月14日)