「子宮頸がん」の新たな治療法を開発 iPS細胞から”若返りキラーT細胞”を作製 がん細胞の増殖を抑える
iPS細胞から子宮頸がんの増殖を抑える免疫キラーT細胞を作製するのに成功した。従来の方法より安全で効果的な子宮頸がんの治療法になる可能性がある。
子宮頸がんの多くは、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因で発症する。HPVワクチンはHPV感染予防には有効だが、子宮頸がんを発症した場合には効果がない。また現在、日本では女性のワクチン接種率は1%以下まで低下している。
そのため、20~30代の子育て世代の女性の罹患率が上昇している。子宮頸がんは、”マザーキラー”とも呼ばれ深刻な問題となっており、再発して進行すると化学療法や放射線療法が効きにくく、新たな治療法の開発が望まれている。
そこで研究グループは、多くの細胞に分化できるiPS(人工多能性幹)細胞から、子宮頸がんが増殖するのを抑制する効果のある、HPV抗原特異的キラーT細胞を作製する研究に取り組んだ。
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キラーT細胞は、免疫細胞であるTリンパ球の中でも、ウイルス抗原や腫瘍抗原を認識し、異常細胞を攻撃するリンパ球。患者のキラーT細胞を体外で増幅し、再び患者の体内に戻す免疫T細胞療法は、がんの新しい効果的な治療法として注目されている。
そして、新たに作製したiPS細胞由来のキラーT細胞が、子宮頸がんの増殖を生体内で強力に抑制し、生存期間を延長させる効果があることをマウスを使って確認した。
子宮頸がんを抑制する効果のある”若返りキラーT細胞”は、iPS細胞から何度でも十分に作り出すことができる。難治性の子宮頸がんに対する免疫細胞を用いた新たな治療法の実現に向けて大きく前進した。
研究は、順天堂大学大学院医学研究科血液内科学の安藤美樹准教授、安藤純先任准教授、小松則夫教授、産婦人科学講座の増田彩子助教、寺尾泰久教授、ときわバイオ取締役(産業技術総合研究所・名誉リサーチャー)の中西真人氏、東京大学医科学研究所幹細胞治療部門の中内啓光特任教授らが共同で行ったもの。研究成果は、米国遺伝子細胞治療学会誌「Molecular Therapy」に掲載された。
研究グループは2013年に、末梢血由来のiPS細胞から、機能的に若返ったキラーT細胞を作製することに成功しており、がんの新たな免疫T細胞療法の開発を目指して研究を続けてきた。
今回の研究ではまず、子宮頸がん患者の末梢血よりHPV特異的キラーT細胞の作製を試みたが、抗がん剤や放射線、ステロイドのために、T細胞が減少しており、作製できなかった。そこで、健常人ドナーの末梢血より作製を試みたところ、HPV特異的キラーT細胞をわずかに作製することができた。
次に、HPV抗原特異的キラーT細胞からiPS細胞の作製を試みた。従来の方法では、ウイルス成分のSV40 T抗原という転写因子が、細胞を修飾するために広く利用されているが、遺伝子を傷つけてしまうおそれがあるため、今回はこの抗原を使用しないで別の2つの初期化遺伝子を使用した。
その結果、健常人ドナーの末梢血を使用して、HPV特異的キラーT細胞からiPS細胞を作製することに成功した。iPS細胞からT細胞へ分化誘導して、若返りキラーT細胞を作製した。この新たに作ったHPV抗原特異的キラーT細胞は、子宮頸がん細胞に対して持続的で強力な傷害活性を示した。
さらに、このキラーT細胞の効果がマウスの体内でどれぐらい持続するかを調べたところ、増殖力が強く、子宮頸がんの抑制する効果が3週間続くことを確かめた。
iPS細胞から若返りキラーT細胞を作製し、子宮頸がんに対する免疫細胞療法として用いる治療法
今回の研究により、iPS細胞から、子宮頸がんに効果のある若返りキラーT細胞を安全で無限に作製できることが明らかになった。これにより、子宮頸がんに対する免疫細胞療法を実現し、”マザーキラー”と呼ばれる子宮頸がんの新たな治療法となる可能性が示された。
今後の課題として、若返りキラーT細胞を用いた治療では、ヒトの免疫に関わる重要な分子であるHLA遺伝子を一致させ、免疫拒絶が起きないようにする必要がある。HLA遺伝子をゲノム編集することで、免疫拒絶が起きないようにできると考えられている。
研究グループは今後、若返りキラーT細胞による治療を実現するために、研究を加速するとしている。
順天堂大学大学院医学研究科血液内科学
Sustainable tumor suppressive effect of iPSC-derived rejuvenated T cells targeting cervical cancers(Molecular Therapy 2020年7月8日)