働く女性と児童・生徒の自殺者数が増加-令和3年版自殺対策白書
政府がこのほど発表した「令和2年(2020年)度 我が国における自殺の概況及び自殺対策の実施状況」(令和3年版自殺対策白書)で、20年の全国における自殺者数が2万1081人となり、11年ぶりに前年比で増加したことが分かった。
働く女性の自殺者数増加が大きく影響しているほか、児童・生徒の自殺者数も過去最高となった。白書では、新型コロナウイルス感染症拡大による雇用環境の悪化や休校など、女性や子どもを取り巻く環境の変化が自殺者数増加に影響している可能性がある、としている。
警察庁の自殺統計に基づく全国の自殺者数は昭和53年に統計を開始。3万人を超えた時期もあるが平成22年以降は10年連続で減少し、令和元年は過去最小となっていた。しかし令和2年は前年比912人増加し2万1081人と増加。男女別で見ると、男性は11年連続で減少しているが、女性の増加が全体の数字も押し上げた。
そのため白書では女性の自殺に注目し、男性の自殺の傾向と比較するとともに、職業や同居人の有無別、原因、動機などについて詳しく分析。女性の職業別に令和2年の自殺社数を過去5年平均と比較したところ、「被雇用者・勤め人」が381人増加と突出していた。
過去5年平均と比べて自殺者数の増加が大きい上位6職業は「事務員」(66人増)、「その他のサービス職」(63人増)、「販売定員」(41人増)、「医療・保健従事者」(33人増)、「その他の専門・技術職」(29人増)、「飲食店店員」(16人増)。原因・動機を過去5年平均と比べた場合、「勤務問題」が34.8%増加と顕著で、白書でも「女性の被雇用者・勤め人の自殺者数の増加との関連が推測される」としている。
さらに原因・動機の「勤務問題」を細かく見ると、増減率が最も高かったのは「職場環境の変化」で過去5年平均が24人だったのに対し、令和2年は48人と倍増した。これらのことから、令和2年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により労働環境が変化した可能性がある、として、働く女性の自殺者数増加との関連を示唆している。
また令和2年の結果では、学生・生徒(小・中・高生、大学生・専修学校生など)の自殺者数が著しく増加したことも問題視された。学生・生徒の自殺者数は平成28年以降増加傾向にあったが、令和2年は1038人。このうち児童・生徒(小・中・高生)の自殺者数は499人と過去最多だった。
また男女別に見ると、女性の児童・生徒の自殺者数は過去5年平均で126人だったのに対し、令和2年は219人と93人も増加。その原因・動機は「学校問題」が37人で最多だった。
白書では、令和2年が新型コロナウイルス感染拡大のため全国一律の臨時休校が実施されたこと、またその影響で夏休みが短縮された地域があること、などを指摘。
自殺者数の推移と学校の運営状況の変化などについて関連を調べるため、インターネットの検索ワードを分析したところ、「学校 行きたくない」で児童・生徒の自殺者数の推移と高い関連性が見られたという。ほかにも令和2年に起きた有名俳優の自殺との関連性についても分析するなどしている。
厚労省では相談窓口、ゲートキーパー、自殺対策の取り組みなどの情報を分かりやすくまとめたサイト「まもろうよ こころ」を公開するなどし、引き続き自殺対策を強化していく考え。