「子宮頸がん(HPV)ワクチン」の安全性をあらためて支持 「副反応説」には科学的欠陥が 近畿大学

 子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の接種後にあらわれたさまざまな症状について、ワクチンとのあいだに因果関係がないことを、近畿大学の研究グループがあらためて示した。

 HPVワクチンに含まれる免疫を活性化させる成分「アジュバント」が、重篤な神経系の症状(副反応)を生じると主張する論文について、その根拠を詳細に検証した結果、データに欠陥があることを明らかにしたとしている。

 「研究成果は、HPVワクチン接種後に生じた神経系の症状を、HPVワクチンの成分と関連付けていた根拠を否定し、HPVワクチンの安全性を正しく示すものです」と、研究グループでは述べている。

 研究チームが検証したのは、HPVワクチン薬害訴訟での原告弁護団の主張の根拠となっている基礎研究の論文であることから、研究成果は同訴訟に大きく影響をもたらすとみられる。

子宮頸がんを予防するためにHPVワクチンが効果的 接種率は伸び悩み

 子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染により起こる病気で、日本では年間3,000人が亡くなっているとみられている。

 発症を予防するための子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)が効果的で、その有効性と安全性は科学的に立証されている。

 同ワクチンの種類には、とくに子宮頸がんの原因になりやすい2種類のHPV(HPV16型と18型)の感染を予防する「サーバリックス」、コンジローマ(性器の外側、外陰のイボ)の原因になるHPVの感染も含め、4種類のHPV(HPV6型、11型、16型、18型)の感染を予防する「ガーダシル」、さらに子宮頸がんの原因となりうる他の5種類のHPVを含めて9種類のHPVの感染を予防する「ガーダシル9/シルガード9」がある。

 日本では2013年4月から12~16歳の女性を対象に、サーバリックスとガーダシルによるHPVワクチンが定期接種となった。

 しかし、同年6月にはHPVワクチン接種後の副反応の可能性に対する国民の懸念から、厚生労働省が同ワクチンの積極的接種勧奨を停止し、日本での接種率は対象者の1%未満に落ち込んだ。

 2022年4月、厚生労働省は9年間の中断を経て、HPVワクチン接種の積極的勧奨を再開したが、接種率は伸び悩んでいる。

 HPVワクチン接種に対する国民の懸念は、接種を受けた女性が、慢性疼痛、運動障害、認知障害などの神経学的症状(いわゆる多様な症状)を発症したとされる事例にもとづいていた。

 この懸念は、現在HPVワクチン薬害訴訟が進行中であることで、さらに強まった。その原告弁護団は「HPVワクチンの成分が神経系の障害を引き起こす」と主張しており、その根拠となる基礎医学研究の論文をホームページなどにリストアップしている。

「HPVワクチン副反応説」には科学的な根拠がない

 子宮頸がんおよび神経免疫学の専門家からなる、近畿大学医学部産科婦人科学教室の松村謙臣主任教授らの研究グループは、それらの論文での1つひとつのデータを詳細に検討してきた。

 そして、2022年8月には、「ヒト生体分子とHPVの間に分子相同性があるために、HPVワクチン接種後に自己抗体が生じて臓器障害が生じる」と主張する論文と、その考えにもとづく動物実験の論文に大きな欠陥があることを明らかにし、「Cancer Science」に報告した。

 同研究グループはさらに、今回の研究で、「HPVワクチンの成分として含まれるアジュバントが多様な神経症状を引き起こす」と主張する論文を詳細に検討し、その主張には根拠がないことを明らかにした。

 20年以上前に、アルミニウムアジュバントを含んだワクチンの筋肉注射では「マクロファージ性筋膜炎(MMF)」という、全身性の筋肉痛、関節痛、疲労感、認知機能障害を生じる病態が起こるケースがあると報告された。

 MMFの特徴は、ワクチンを注射した筋肉内へのアルミニウムの沈着と、それを取り込んだマクロファージという細胞の集積だが、これは筋肉という局所に異物であるアルミニウムを注射すれば必ず起こる反応だ。

 研究グループは今回、このワクチンを注射したひとつの筋肉にとどまる局所反応と、MMFによって起こるとされる全身性の炎症(全身の筋肉痛、関節痛)や脳の異常(認知機能障害など)との因果関係は、これまで一度も示されたことがなく、MMFという疾患の存在自体が否定的であることを明らかにした。

 また、MMFの症例は、アルミニウムのなかでも、水酸化アルミニウムを含むワクチン接種後に限定して報告されている。

 日本で使用されてきたHPVワクチンには、サーバリックスとガーダシルの2種類がある。水酸化アルミニウムはサーバリックスには含まれているが、ガーダシルには含まれていない。

 したがって、日本でのHPVワクチン接種後の多様な症状は、たとえMMFという病気が存在したとしても、MMFでは説明できないとしている。

 ワクチンに含まれるアジュバントによって自己免疫反応が誘導されるとする「ASIA」という病態も提唱されているが、研究グループは、「ASIAの診断基準は広過ぎで、データの再現性がなく、動物実験が不適切。ワクチン接種やアルミニウム含有アレルゲン製剤の治療と自己免疫性疾患の関連が疫学的に否定されていることからも、その存在は否定的」と示している。

HPVワクチンの安全性をあらためて示す

 研究は、近畿大学医学部産科婦人科学教室の松村謙臣主任教授と、同微生物学教室の角田郁生主任教授を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」にオンライン掲載された。

 同研究グループは、「Cancer Science」に掲載された先行研究と、今回の研究論文により、HPVワクチン薬害訴訟原告弁護団がリストアップした基礎医学研究論文に重大な欠陥があり、その証拠能力が欠如していることを明らかにした。

 今回研究グループよって行われた一連の検討により、「HPVワクチンの成分が神経学的な諸症状の原因になる」という理論的な根拠が否定され、HPVワクチンが安全であることがあらためて示された。

 「今回検証したのはHPVワクチン薬害訴訟原告弁護団の主張の根拠となっている基礎研究の論文であることから、本研究成果は訴訟に大きく影響を与えると考えられます」と、研究グループは述べている。

 「ひいては国内外でのHPVワクチン接種に関する施策や副反応への対応策、積極的推奨が再開されたHPVワクチンの接種率にも、波及効果を有すると考えられます」としている。

近畿大学医学部産科婦人科学教室
Critical evaluation on roles of macrophagic myofasciitis and aluminum adjuvants in HPV vaccine-induced adverse events (Cancer Science 2023年1月5日)
Scientific evaluation of alleged findings in HPV vaccines: Molecular mimicry and mouse models of vaccine-induced disease (Cancer Science 2022年7月4日)


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