子宮頸がんとHPVワクチン 日本産科婦人科学会が「接種は必要」と強調
日本産科婦人科学会は3月に、公式サイトで一般向けの情報ページ「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」を公開した。子宮頸がんの発生機序や治療の基礎知識、国内外のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種の状況および安全性について分かりやすく解説している。同学会は「子宮頸がんの予防戦略において、HPVワクチンと検診の両者はともに必須」と強調している。
このままでは日本は子宮頸がんを予防できない国になる
日本で、子宮頸がん予防を目的としたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種の定期接種を積極的に勧めること(積極的勧奨)が中止されたのは2013年。およそ5年が経過したが、勧奨の再開についての議論は続いたままだ。
子宮頸がんは年間約1万人が罹患し、約2,900人が死亡しており、患者数・死亡者数とも近年増加傾向にある。とくに20歳~40歳台の若い世代での罹患の増加が著しい。
過去10年間で子宮頸がんの年齢調整死亡率は9.6%上昇しており、他の主要な5大がんの死亡率が低下または横ばいなってきているのに対し、子宮頸がんだけは今後も上昇していくとみられている。
厚生労働省のHPVワクチンの効果に関する推計によると、ワクチン接種により期待される子宮頸がん罹患者数の減少は10万人あたり859〜595人、ワクチン接種により期待される子宮頸がん死亡者数の減少は10万人あたり209〜144人であり、接種により多くの子宮頸がんの罹患や死亡の回避が期待できることが示された。
若い世代の子宮頸がんの死亡率を低下させるのは困難
子宮頸がんの根本的な原因となるHPV感染そのものをワクチンによってブロックすること(一次予防)と、検診によるスクリーニングで前がん病変のうちに発見して治療し、潤がんを予防すること(二次予防)の両者の併用による予防の重要性が世界的に認識されている。
ワクチンはHPVの感染予防を目的とするもので、すでに感染している細胞からHPVを排除する効果は認められない。したがって、「はじめての性交渉を経験する前の10代前半の若年者にワクチンを接種することが最も有効」だという。
HPVには約100種類の型がある。発がん性のある高リスク型は15種類。感染しても9割は免疫で排除されるが、感染が持続した5~10%で、細胞の異常が起こり、がんになる場合がある。
日本で承認されているHPVワクチンは2価と4価の2種類がある。2価ワクチンは高リスクの16型と18型に効き、6型、11型を加えた4種類に効く4価ワクチンが承認されている。接種スケジュールは2価ワクチンが0、1、6ヵ月の3回、4価ワクチンは0、2、6ヵ月の3回で、投与方法は筋肉注射だ。
子宮頸がんの治療成績はかなり向上してきているが、依然として進行症例の予後は不良であり、またこれらの治療により救命できたとしても、妊娠ができなくなったり、排尿障害、下肢のリンパ浮腫、ホルモン欠落症状などさまざまな後遺症で苦しむ患者が少なくない。
また、日本の検診受診率は40%台であり、欧米先進国の70〜80%台と比較して低く、無料クーポンによる助成などのさまざまな努力が行われても、とくに20歳代を含む若年層の検診受診率は低迷したままだ。同学会は「検診のみでとくに若い世代の子宮頸がんの死亡率を低下させていくことは困難」だとしている。
HPVワクチンと接種後の”多様な症状”は関連がないと報告
HPVワクチンは世界の130ヵ国以上で販売され、65ヵ国で国の予防接種プログラムが実施されている。HPVワクチンの安全性については、世界保健機関(WHO)が「HPVワクチンは極めて安全である」との結論を発表している。
厚生労働省の専門部会は、「慢性疼痛や運動障害など、HPVワクチン接種後に報告された”多様な症状”とHPVワクチンとの因果関係を示す根拠は報告されておらず、これらは機能性身体症状と考えられる」との見解を発表している。
名古屋市立大学の鈴木貞夫らは、名古屋市で行った疫学調査で、ワクチン接種後に報告された多様な症状とワクチン接種との間に関連を認められなかったと報告している。
ワクチン接種後に何らかの症状が現れた人のための診療相談窓口は全国85施設(全ての都道府県)で設置されている。また2015年には日本医師会・日本医学会が「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」を発刊し、初期対応のポイントやリハビリテーションを含めた日常生活の支援、家族・学校との連携の重要性について解説している。
2000年度以降生まれのワクチン未接種の世代で子宮頸がんリスクが上昇
日本産科婦人科学会は、科学的見地に立って、「子宮頸がんの予防戦略においてHPVワクチンと検診の両者はともに必須」として、これまでHPVワクチン接種の積極的勧奨の再開を国に対して強く求める声明を4回にわたり発表してきた。
将来の日本では、接種率が高かった世代ではHPV感染や子宮頸がん罹患のリスクが低下する一方で、2000年度以降に生まれた女子ではワクチン導入前世代と同程度のリスクに戻ってしまうことが推計されている。
「この負の影響を少しでも軽減するためには、早期の積極的勧奨の再開に加え、接種を見送って対象年齢を超えてしまった世代にも接種機会を与えることも検討する必要があります」と、同学会は指摘。
「多くの若い働き盛りの女性や子育て世代の女性が、子宮頸がんに罹患し、妊娠ができなくなったり命を失っている我が国の現状は、非常に深刻な問題として捉えられるべきです」と、同学会は強調している。
なお、同学会サイトでは詳細版として「もっと知りたい方へ(Q&A、参考文献)」というPDFファイルへのリンクも掲載されており、21ページにわたって詳細なデータや解説が公開されている。
子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために(日本産科婦人科学会)
子宮頸がんとHPVワクチンに関する最新の知識と正しい理解のために Q&A(日本産科婦人科学会)
HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種の早期の勧奨再開を強く求める声明(日本産科婦人科学会2017年12月9日)
記事提供:日本医療・健康情報研究所