日本の給食が「肥満」を減らす 給食実施率の増加で肥満が低下

 日本の給食が思春期の子供に肥満が少ないのは、学校で提供される給食のおかげ――。こうした研究結果を東京大学が発表した。

小中学校の給食が肥満の低下に貢献

 思春期の過体重・肥満は将来の肥満、生活習慣病、さらには死亡率にも影響し、その頻度の多さと長期にわたる健康影響のため、社会的な損失も大きい。思春期の肥満を予防することは、成人の肥満や肥満関連疾患の予防にとって有効なアプローチとなる。

 思春期の肥満は世界的には増加傾向にあるが、日本では肥満率が低いことが知られており、その理由として給食が挙げられる。適切な栄養基準のもとで提供された同じ食事を、その学校の全員が食べる日本の小中学校の給食は、肥満の低下に貢献しているとみられる。しかし、それを支持するエビデンスはこれまでなかった。

給食実施率と栄養状態の指標の関連を調査

 そこで東京大学の研究グループは、日本で中学校での給食の実施が過去10年間に拡大したことをふまえて、給食が思春期の子供の肥満に及ぼす影響を調べた。

 まず、文部科学省が行っている「学校給食実施状況等調査・学校保健統計調査」のデータを解析。学校保健統計調査では、層化二段無作為抽出法を用いてランダム抽出した対象者(同学年の約5%)について、4月1日から6月30日の間に行われる学校保健安全法による健康診断の結果にもとづいた値が報告されている。

 「2006~2015年の都道府県レベルの給食実施率」および「県レベルの栄養状態の指標(過体重・肥満・やせの生徒の割合、平均身長、平均体重)」を性・年齢別に抽出。パネルデータ分析の手法を用い、前年の栄養状態の指標、県・年齢・観測年などを考慮した上で、前年の県レベルの給食実施率と翌年の栄養状態の指標の関連を調べた。

 その結果、県レベルの給食実施率が10%増加すると、翌年の過体重の男子の割合は0.37%(95%信頼区間0.18-0.56)、肥満の男子の割合は0.23%(同0.10-0.37)低下した。もともと給食は、貧困世帯の低栄養を防ぐために行われた経緯がある。女子については、過体重・肥満を減らす傾向はみられたものの、統計学的に有意な結果ではなかった。また、やせの割合や体重、身長については、統計学的に有意な効果はみられなかった。

学校給食プログラムは思春期の肥満を減らす有効な施策

 今回の研究結果から、少なくとも男子においては、日本の給食プログラムが、思春期の過体重・肥満を減らす効果があることが分かった。思春期の肥満を集団として減らすという観点で、日本の中学校における給食実施が効果的であることが示された。

 これまで日本の給食は児童の栄養摂取の質を上げる可能性が指摘されていたが、給食が実際に過体重・肥満を減らす効果を、思春期生徒の代表的サンプルを用いて実証したのは、今回の研究がはじめて。今後は、個人レベルのデータの解析や、栄養の質的変化によるものか、カロリー摂取量によるものか、食事習慣によるものかなど、給食が肥満を減らすメカニズムの究明が期待される。

 今回の研究結果は、学校給食に関する政策の重要な資料になる。「学校給食プログラムを介した、適切な栄養基準にもとづいた食事の提供は、グローバルな視点からも、思春期の肥満を減らす有効な施策の1つと考えられる」と、研究者は述べている。研究は、東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学の宮脇敦士博士課程大学院生、李廷秀特任准教授、小林廉毅教授の研究グループによるもので、学術誌「Journal of Public Health」に発表された。

東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学
Impact of the school lunch program on overweight and obesity among junior high school students: a nationwide study in Japan(Journal of Public Health、2018年6月5日)

記事提供:日本医療・健康情報研究所