肥満が歯周病を悪化させるメカニズムを解明 腸内フローラが不健康だと歯周病も悪化しやすい
歯周病に関連する細菌が、腸内細菌の構成や代謝を変化させ、全⾝に炎症を引き起こし、これがさまざまな全⾝疾患のリスクの上昇につながっている。
肥満者では腸内細菌が変化していることが、歯周病のリスク上昇の要因になっているという。
肥満は世界的に急速に増加しており、健康問題になっている。肥満はさまざまな疾患のリスクを上昇させることが明らかになっているが、⼝腔内の慢性感染性疾患である歯周病もそのひとつだ。
肥満者は細菌感染症に罹患しやすいことは知られていたが、肥満者がなぜ歯周病を発症しやすく、また重症化しやすいのか、詳しいメカニズムは分かっていなかった。
一方、研究グループは、これまで歯周病に関連する細菌が腸内細菌の構成や代謝を変化させ、全⾝的に軽微な炎症を持続させることを発⾒し、それが歯周病によるさまざまな全⾝疾患のリスク上昇の理由のひとつになっていることを明らかにしてきた。
肥満者では腸内細菌の構成が変化していることが報告されている。研究グループはこうした先⾏研究から、腸内細菌の変動は歯周病のリスク上昇の要因になっているのではないかと推測した。
研究グループは、⾼脂肪⾷と普通⾷をそれぞれ給餌して肥満になったマウスと、通常に発育したマウスの糞便を、あらかじめ抗⽣物質を投与して腸内細菌をほとんどなくしたマウスに移植する実験を行った。それぞれの移植マウスをさらに2群に分けて、⼈為的に歯周炎を誘発したマウスとそうでないマウスに分けた。
その結果、肥満マウスの糞便を移植した場合、普通マウスの糞便を移植した場合に比べて、歯周炎が重症化することが分かった。両者の違いは移植した糞便だけなので、歯周病重症度の違いは腸内細菌にあるとみられる。
解析した結果、移植した糞により、移植後の腸内細菌叢(腸内フローラ)に違いが生じることが分かった。さらに、移植元のマウスの糞便を解析したところ、肥満マウスの腸内細菌叢では、プリン代謝経路が活性化しており、この経路をもつ「Turicibacter」などの細菌の割合が有意に⾼いことが分かった。
これらの細菌は移植後も有意に⾼い⽐率であり、歯周炎を誘発したマウスでは血中のプリン代謝物である尿酸の値が上昇していることが明らかになった。
尿酸は、低濃度では抗酸化作⽤などをもたらし体にとって良い作⽤があるが、⾼濃度になると炎症を促進することが知られている。
そこで、マウスに⼈為的に⾼尿酸血症をつくり、歯周炎を誘発するとともに、肥満マウス糞便を移植したマウスに尿酸産⽣を抑制する薬剤(アロプリノール)を投与して、歯周炎を誘発する実験を⾏った。
その結果、⾼尿酸血症のマウスでは歯周炎が重症化し、肥満マウス糞便を移植したマウスでは、尿酸の量を低下させる薬剤であるアロプリノールの投与により重症化が抑制されることが⽰された。
⾼尿酸血症のマウスでは歯周炎が重症化し、
肥満マウス糞便を移植したマウスではアロプリノール投与で重症化が抑制された
これらの結果から、肥満者で歯周炎が悪化するのは、腸内細菌の変化によりプリン代謝経路が活性化され、産⽣された尿酸が血流を介して歯周組織での炎症を亢進させるからだと分かった。
プロバイオティクスは、腸内細菌叢のバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える⽣きた微⽣物で、腸内細菌叢のバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える⽣きた微⽣物」と定義されます。乳酸菌やビフィズス菌などがよく知られている。
「肥満者での歯周病治療で、従来の歯科治療に加えて、腸内細菌への介⼊が有効である可能性が⽰されました。歯科治療の際に、補助的に併⽤するプロバイオティクスの探索・開発が期待されます」と、研究者は述べている。
研究は、新潟⼤学⼤学院医歯学総合研究科⼝腔保健学分野の⼭崎和久教授(現属:理化学研究所⽣命医科学研究センター)と理化学研究所⽣命医科学研究センター粘膜システム研究チームの⼤野博司チームリーダーらの共同研究グループによるもの。研究成果は、米国微⽣物学会が発行する「mBio」に掲載された。
新潟⼤学⼤学院医歯学総合研究科
理化学研究所⽣命医科学研究センター(IMS)
Obesity-Related Gut Microbiota Aggravates Alveolar Bone Destruction in Experimental Periodontitis through Elevation of Uric Acid(mBio 2021年6⽉1⽇)