「歩きスマホ」は転倒リスクを高める 半数が「ぶつかる」などの危険を経験 なぜ歩行が安定しなくなるかを解明

 歩行中にスマホを利用する、いわゆる「歩きスマホ」は、転倒リスクを増大させる。

 4割超の人が「歩きスマホ」を行っており、とくに10代~20代は男女ともに6割を超えるという調査結果がある。

 「歩きスマホ」により、過去に「人や物にぶつかった」「転倒した」といった危険を経験している人は半数に上ることが示された。

 さらにスマホ画面を見るのにともなう脳内の情報処理が、歩行の安定性を低下させていることが、新たな研究で明らかになった。

「歩きスマホ」は転倒リスクを高める

 歩行中にスマホを利用する(通話、メール、ネットの閲覧など)、いわゆる「歩きスマホ」は、転倒リスクを増大させる。リュックサックを前に抱えて歩く「前抱えリュック」も危険だ。

 スマホ画面を注視したり、前抱えリュックを行うことで、足元や周辺の視覚情報が失われ、段差や障害物などによるつまづきを誘発することが懸念されている。

 歩きスマホによる事故は、道路や交通施設で起こりやすいが、歩道や駅(ホーム、階段、エスカレーターなど)でも多発しているという報告がある。

 2019年までの5年間に、転倒によって救急搬送された方は30万人を超える。転倒・骨折は高齢者の要介護認定の主要な原因にもなる。転倒リスクを減らすための対策が求められている。

半数の人が「歩きスマホ」による危険を経験

 NTTドコモ モバイル社会研究所が行った実態調査によると、4割超の人が「歩きスマホ」を行っている。

 とくに若年層はその割合が高く、男女とも10代~20代で6割を超えることが明らかになった。一方、男性の70代および女性の60代~70代の高年層では、その割合が低く3割以下だった。

 「歩きスマホ」は、年齢によらず「特別区・政令指定都市」といった大都市圏で多く、また鉄道や電車、バスなどの公共交通機関を主に利用している人は半数以上が「歩きスマホ」を行っているという。

 同研究所が別の年に行った調査では、「歩きスマホ」により、過去に「人や物にぶつかった」「転倒した」といった危険を経験している人は半数に上ることも示された。

 「歩きながらのスマホ、自転車を運転しながのスマホは、どちらもルール違反だけでなく、大きな事故につながります。ルールやマナーを守るのは、スマートフォンを使う人自身を守ることになり、他人のためにもなります」と、同研究所では注意を呼びかけている。

スマホ操作にともなう脳内の情報処理が歩行の安定性を低下

 「歩きスマホ」が危険なのは、周りが見えていないことによる他人や障害物との衝突や段差つまずき、転落といった外因性の障害があるからだけではない。

 スマホ画面を見るのにともなう脳内の情報処理が歩行の安定性を低下させるという、内因性の障害もあることが、京都大学などの研究により明らかになった。

 スマホの操作や利用のために、脳内の情報処理リソースが割かれてしまうことで、歩行運動を制御する脳内情報処理が円滑に行われにくくなり、歩行の安定性が低下すると考えられるという。

 研究グループは、段差や障害物のない整定地での直線的で一定速度の歩行であっても、歩きスマホにともなう内因性の要因により、歩行の安定性が低下することを確かめた。

 研究は、大阪大学大学院基礎工学研究科の矢野峻平氏ら、ノースカロライナ州立大学および京都大学大学院情報学研究科の野村泰伸教授の研究グループによるもの。

一定速度の歩行でも歩行周期には「ゆらぎ」がある

 研究グループは、若年健常者44人を対象に、一定速度でベルトが回転するトレッドミル上を歩行する際の歩行リズム、歩行周期(歩行サイクル時間)の変動、歩行周期ゆらぎを計測し、歩行の安定性を反映する指標値を評価した。

 その結果、非認知・認知両課題で同程度に視覚情報が低下しているにもかかわらず、認知課題(歩きスマホ)に対してのみ、他と比べて指標値が低下することが示された。これは、歩きスマホにともなう脳内情報処理が、内因性に歩行の安定性を低下させることを示唆しているという。

 歩行の周期変動は、「1/fゆらぎ」を示すことが知られている。これは、生体のリズムに基本的にみられるものだ。一定速度の歩行をしているときでも、歩行周期は一定とはならず、サイクル毎に微小に変動しており、「歩行周期ゆらぎ」と呼ばれている。

 高齢者や姿勢や歩行の不安定化症状を示すパーキンソン病の患者では、歩行をしているときにゆらぎが損なわれやすいことが知られている。研究成果は、パーキンソン病の歩行障害の原因究明の一助になる可能性もあるとしている。

歩きスマホにともなう脳内情報処理が歩行の安定性を低下させる
A. 歩きスマホの計測
B. 踵に取り付けた加速度計で計測される加速度の時間波形とそこから得られる歩行周期の系列
C. 歩行周期の変動(歩行周期ゆらぎ)

出典:京都大学、2024年

京都大学 情報学研究科
Smartphone usage during walking decreases the positive persistency in gait cycle variability (Scientific Reports 2024年7月16日)

レポート (NTTドコモ モバイル社会研究所)
モバイル社会白書 (NTTドコモ モバイル社会研究所)
トラブル事例に学ぶスマートフォン安心ガイド コンパクト版 (NTTドコモ モバイル社会研究所)


掲載記事・図表の無断転用を禁じます。
日本医療・健康情報研究所]Copyright@2024 Soshinsha.