愛情ホルモン「オキシトシン」が社会的つながりを強める 孤独は愛情ホルモンを減らす 動脈硬化にも影響
オキシトシンは、他者とのふれあいにより脳から分泌されるホルモンで、「愛情ホルモン」とも呼ばれている。
オキシトシンは、男女ともに社会親和性を増加させる作用があるだけでなく、社会的孤独による動脈硬化を抑制する働きをしている可能性がある。
「社会的な孤独」が、オキシトシンの分泌を減らし、脂質異常をまねくことで、動脈硬化を促進させる新たなメカニズムが発見された。
ふれあいにより分泌される愛情ホルモンが社会親和性を増加
慶應義塾大学などは、「社会的な孤独」が、脳視床下部で「オキシトシン」の分泌を減少させ、肝臓で脂質異常(中性脂肪の増加、悪玉のVLDLやLDLコレステロールの増加)をまねくことで、動脈硬化を促進させる新たなメカニズムを発見したと発表した。
オキシトシンは、「愛情ホルモン」とも呼ばれており、ヒトでも動物でも、他者とのふれあいにより脳の視床下部から分泌されるホルモン。愛情形成や社交性で重要な役割をもち、女性では分娩時や授乳時に分泌されることが知られるが、男性でも一定量が分泌されている。
オキシトシンは、男女ともに社会親和性を増加させる作用が着目され、食事摂取量のコントロールや、エネルギー消費量の調節にも関わることから、研究が活発に進められている。
関連情報
社会的な孤独によるストレスが動脈硬化を進行
人が社会的に孤立した状態である「社会的な孤独」(Social Isolation/Loneliness)は、精神疾患だけではなく、肥満や糖尿病などの身体疾患の要因になることが知られている。
これまでも社会的な孤独は、脂質異常や動脈硬化を原因とする、心筋梗塞などの虚血性心血管疾患の発症や死亡のリスクを高めることが報告されている。
一方で、愛情豊かな環境で発達期を過ごしたり、社会的なつながりのある環境は、成人後のストレス耐性を増やし、不安やうつを低下させることが知られている。
心理社会的ストレスのモデル動物を対象としたこれまでの研究では、社会的な孤独は、交感神経系、脳がストレスを感じたときに活性化される視床下部-下垂体-副腎皮質系、さらには炎症の活性化により動脈硬化を促すことが報告されている。
研究チームは今回、マウスでもとくに社会性の高い同胞マウス(同じ母親から生まれた兄弟マウス)を使った実験を行い、社会的な孤独によるストレスが動脈硬化を進行させるメカニズムを明らかにした。
オキシトシンで社会的孤独による動脈硬化を抑制
脳視床下部で産生されるオキシトシンは、脳と肝臓を結ぶ重要な鍵分子であり、消化管での脂質の吸収を調整する胆汁酸の生成を促したり、血中の中性脂肪を分解したり、悪玉コレステロールも減らす作用をするLPL(リポタンパクリパーゼ)の活性を改善する働きをしていることを解明した。
「オキシトシンは、とくに社会的孤独による動脈硬化の進展に対する、新たな治療標的として期待されます。社会的つながりや”絆”が、動脈硬化の原因となる脂質異常症の予防に重要であることが、あらためて強く示唆されます」と、研究者は述べている。
研究は、慶應義塾大学医学部内科学教室(循環器)の高聖淵助教(研究当時)、安西淳専任講師、家田真樹教授らの研究グループが、内科学教室(腎内分泌代謝)の木内謙一郎准教授、林香教授、先端医科学研究所(脳科学)の田中謙二教授、および自治医科大学の尾仲達史教授らと共同で行ったもの。研究成果は、「Circulation Research」に掲載された。
「愛情ホルモン」であるオキシトシンは、分娩時の子宮収縮の促進や、授乳期の射乳の誘発、子育て行動の促進などで重要な役割を果たしている。
理化学研究所はこのほど、母マウスが授乳を行うときのオキシトシン神経の活動を、一細胞レベルで可視化することにはじめて成功したと発表した。
オキシトシンは、乳腺を収縮させることで母乳を放出する「射乳反射」に必須な神経ホルモンであることが知られている。授乳のときには、オキシトシン神経細胞の集団は波状に活性化(パルス状活動)することで、大量のオキシトシンを血中に分泌する。
研究チームは今回、内視顕微鏡を用いた一細胞イメージングを新たに確立。その結果、授乳中に多くのオキシトシン神経細胞が、いっせいにパルス状活動に参加することが分かった。
また、出産後の授乳中期では、活動する細胞の数が増加し、それぞれの細胞でパルスの波幅(パルス状活動の時間)も伸びて、全体の神経活動が増強することも突き止めた。
仔マウスが必要とする母乳の増える時期に、母マウスの神経活動が増大し、オキシトシン分泌が促されるメカニズムがあることが示唆された。
「今回の研究は、さまざまな生命現象でオキシトシンがいつ、どのように分泌されるのかを理解するうえで重要な第一歩となります。オキシトシン神経細胞の活性化は、自閉症スペクトラム障害など社会性行動の非定型性をともなう発達障害などの治療戦略などでも注目されています」と、研究者は述べている。
「薬剤投与によりオキシトシンの分泌を制御する技術の開発も進められており、今回の研究で確立した観察手法は、授乳のみならず、オキシトシンの関与するさまざまな生理機能の解明やその応用研究に貢献すると期待されます」としている。
研究は、理化学研究所 生命機能科学研究センター 比較コネクトミクス研究チームの矢口花紗音大学院生リサーチ・アソシエイト、田坂元一上級研究員、宮道和成チームリーダーらによるもの。研究成果は、「Science Advances」にオンライン掲載された。
慶應義塾大学 医学部 循環器内科
Social Bonds Retain Oxytocin-Mediated Brain-Liver Axis to Retard Atherosclerosis (Circulation Research 2024年11月27日)
理化学研究所 生命機能科学研究センター
Flexible adjustment of oxytocin neuron activity in mouse dams revealed by microendoscopy (Science Advances 2024年12月13日)
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