早期乳児の腸管内ビフィズス菌 母親の分娩時の抗菌薬投与で減少

 日本人の早期乳児期の腸管内のビフィズス菌の定着が、分娩直前の母体への抗菌薬投与により低下するという研究を、順天堂大学が発表した。
 ビフィズス菌の定着を促すために、プロバイオティクスの使用などの介入が必要となる可能性がある。

腸内フローラはあらゆる病気と関連



 ヒトの腸管内には100~1000兆個もの細菌が定着しており、「腸内フローラ」(腸内細菌叢)と呼ばれる。

 近年の技術進歩にともない、腸内細菌叢を網羅的に解析することが可能となり、細菌叢とヒトの健康との密接な関わりが分かってきている。

 たとえば、腸内細菌叢の乱れによって、アレルギー疾患や肥満、糖尿病、がん、うつ病などの精神疾患といった、あらゆる種類の病気の発症と関連していると考えられている。

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ビフィズス菌が少ない乳児はアレルギーの発症率が上昇

 とりわけ乳児においては、生後6ヵ月間における腸内菌種、とくにビフィズス菌の割合(占有率)の変化や腸管内への定着が、アレルギーなどの疾患発症に影響するとされる。

 ビフィズス菌が少ない乳児は、その後の生活の中でアレルギーの発症率が高くなる可能性が指摘されている。

 このビフィズス菌の占有率や腸管への定着には、分娩様式(自然分娩、帝王切開)、栄養(母乳、ミルク)などが影響すると考えられているが、その要因は分かっていない。

 また、分娩時に感染予防を目的に母体の血液中に抗菌薬が投与されることがあるが、抗菌薬投与による影響についてはほとんど報告がなかった。

抗菌薬投与により腸内のビフィズス菌が低下

 研究では、分娩時に感染予防のため行われることがある母体血管中への抗菌薬投与が、早期乳児の腸内細菌叢にどのような影響を与えるかを、健常な日本人乳児33人の糞便を集め検証した。

 33人のうち、帝王切開や前期破水などの理由で分娩直前の母体血中に抗菌薬が投与されたのは19人で、残りの14人に抗菌薬の投与はなかった。

 その結果、母体血中への抗菌薬投与によりビフィズス菌の占有率は有意に低下し、腸内細菌の多様性に関しても抗菌薬投与の有無により明らかな差が認められた。

 一方、分娩様式(帝王切開か自然分娩か)の違いで、ビフィズス菌の占有率および腸内細菌の多様性について大きな差はみられなかった。

プロバイオティクスの投与などの介入を検討

 研究では、早期乳児期における腸内細菌叢へのビフィズス菌の定着には、分娩直前の母体血中への抗菌薬投与が影響することが示された。

 一方、分娩直前の抗菌薬投与は、安全な分娩のためには必要不可欠なもので、その有用性も明らかだ。

 「分娩直前に抗菌薬を投与された母親から生まれた乳児に対し、ビフィズス菌の定着を促すために、プロバイオティクスの使用など、何らかの介入を検討する必要がある」と、研究グループは述べている。

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科マイクロバイオーム研究講座の井本成昭助手、渡邉心准教授、救急災害医学研究室の橋口尚幸教授らの研究グループと、アサヒグループホールディングスのコアテクノロジー研究所、岩手県立磐井病院小児科・新生児科が共同で行ったもの。詳細は科学雑誌「Journal of Perinatology」に掲載された。

順天堂大学大学院医学研究科
Maternal antimicrobial use at delivery has a stronger impact than mode of delivery on bifidobacterial colonization in infants: a pilot study(Journal of Perinatology 2018年7月24日)

記事提供:日本医療・健康情報研究所