【新型コロナ】子供の心の実態調査 食事を食べられなくなる「神経性やせ症」の子供がコロナ禍で増加

 新型コロナの流行で、子供たちの生活も大きく変わり、心にもさまざまな影響を及ぼしている。

 国立成育医療研究センターは、コロナ禍での子供の心の実態調査を、全国の26の医療機関の参加を得て2021年4月~6月に行った。

 その結果、コロナ禍の影響で、食事を食べられなくなる神経性やせ症の子供が、1.6倍に増加していることが明らかになった。

コロナ禍は子供にとってもストレスになっている

 今回の子供の心の実態調査は、国立成育医療研究センターが行っている「子どもの心の診療ネットワーク事業」の一環として、全国の26医療機関の参加を得て行ったもの。新型コロナの流行下の2020年度と、流行前の2019年度とを比べた。

 その結果、新型コロナの流行により、「神経性食欲不振(神経性やせ症)」の初診外来患者数が1.6倍に、新入院者数が1.4倍に増加していたことが明らかになった。コロナ禍でのストレスや不安が子供にも影響を及ぼしていることが明らかになった。

 「神経性やせ症」は摂食障害のひとつで、極端に食事制限をしたり、過剰な食事後に吐き出したり、過剰な運動を行うなどして、正常体重より明らかに低い状態になる疾患。病気が進行すると、日常生活に支障をきたすこともある。

 同事業の拠点病院からは、コロナ禍で神経性やせ症の患者が重症化し、入院期間が延びているとの報告もあったという。

 こうした背景に、緊急事態宣言や学校の休校などの生活環境の変化によるストレス、子供たちが感染対策のために家に引きこもっていること、行事などのアクティビティが中止になったこと、友達に会えないこと、新型コロナへの不安などがあると考えられる。

 同センターが、6~18歳の子供を対象に実施した「コロナ×こどもアンケート」の第3回調査では73%に、第5回調査では76%に、何らかのストレス反応がみられた。

新型コロナの流行により、神経性やせ症の初診外来患者数が1.6倍に、新入院者数が1.4倍に増加
初診外来患者
新入院患者数
出典:国立成育医療研究センター、2021年

摂食障害の患者のための病床数が不足

 さらに、摂食障害の患者のための病床数が不足していることも分かった。摂食障害の病床充足率について回答があった5施設のうち、4施設で病床使用率が増加しており、充足率(現時点で摂食障害で入院している患者数/摂食障害の入院治療のために利用できる病床数×100)が200%を超える施設が2施設あった。

 摂食障害を治療できる医療機関が少ないこともあり、特定の施設に入院患者が集中していることが推測される。また、新型コロナ感染者への病床数を増やしたため、摂食障害の患者の入院まで対応できなくなったことが影響している可能性もある。

 「摂食障害の病床数が不足していることも判明し、摂食障害を治療できる医療機関の拡充が求められます。また、家庭や教育機関では、子供の食欲や体重の減少に気を配り、深刻な状況になる前に医療機関の受診につなげることが必要です」と、研究グループでは述べている。

半数の子供が「あまり食欲がない、または食べ過ぎる」

 コロナ太り対策のダイエットなどを取り上げた報道やSNSによる情報に、子供たちが影響された可能性もあるという。「コロナ×こどもアンケート」第4回調査では、「あまり食欲がない、または食べ過ぎる」という子供は全体の約半数に上った。

 また、第5回調査では、いまの自分の体型について回答した子供のうち38%が、「太りすぎ」「太りぎみ」と思っていると回答し、48%が「やせたいと思っている」と回答した。

 さらに、回答した子供の4%がやせるために「食事の量を普段の3分の2以下に減らす」、2%が「食べたものを吐く」と回答しており、深刻な現状が示された。

 「今回の実態調査で判明した患者数以上に、摂食障害の潜在患者や予備群の子供がいる可能性もあります」と、研究グループでは述べている。

 「神経性やせ症の場合、本人が病気を否認して医療機関での受診が遅れがちです。子供の食欲や体重の減少に家族や教育機関で気を配り、深刻な状態になる前に、まずは内科、小児科などのかかりつけの医を受診することが必要です」と指摘している。

中学生も自分の身体イメージの矛盾に悩んでいる
「やせ願望」から摂食障害につながるおれそが

 秋田大学、福島大学、帝京平成大学などは、日本の中学生が自分の体型をどのように評価しているかを明らかにする実態調査を行った。それによると、自分自身の体型を低く評価している子供が多いことが示された。

 「こうした身体イメージの自己矛盾は、摂食障害の前兆へとつながっていく可能性があります。日本の中学生の身体イメージの自己矛盾は、女の子であること、カロリー制限をした食事をしていること、倦怠感や抑うつ気分などの心理的症状もっていることと密接に関連していることが示されました」と、研究グループでは述べている。

 標準的な体型なのに当人は太っていると認識していたり、自分自身のイメージと他者からの評価とのあいだにズレがあることは、健康な人でも多少はみられる。しかし、摂食障害の患者ではそのズレが大きく、自己評価も低いことが知られている。

 研究グループは、埼玉県内の中学校に通う13~15歳の生徒535人を対象に調査を実施。肥満の生徒などを除外した304人のデータを解析した。

 その結果、男子は自己認識よりもがっしりした体格を理想としており、女子は細めの体型を理想とする傾向があることが分かった。身体イメージの自己矛盾に該当する割合は、男子では3%であるのに対して、女子では25%に上った。

 また、食事でカロリー制限をしたことがある回答した女子は、3人に1人以上の38%に上り、男子の6%を大きく上回った。スポーツや運動の課外活動に参加している割合は、女子では53%で、男子の73%を大きく下回った。

 「摂食障害が世界的に増えていることを考えると、身体イメージの自己矛盾が拡大するのを防ぐため、子供や若年者に効果的な早期介入を提供する必要があります」と、研究グループは述べている。

子供の心の診療ネットワーク事業

 「子供の心の診療ネットワーク事業」は、国立成育医療研究センターが中央拠点病院となり運営されている事業。都道府県などの地方自治体が主体となり、事業の主導的な役割を担う拠点病院を中心に、地域の病院・児童相談所・保健所・発達障害者支援センター・療育施設・福祉施設・学校等の教育機関・警察などが連携して、子供たちの心のケアを行っている。

 また、地域でのよりよい診療のため、子供の心を専門的に診療できる医師や専門職の育成や、地域住民に向けた子供の心の問題に関する正しい知識の普及を実施。さらに、地域内のみならず、事業に参加している自治体間の連携も強化し、互いに抱える問題や実施事業に関する情報共有も行っている。

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
子どもの心の診療ネットワーク事業(国立成育医療研究センター)
コロナ×こども本部「コロナ×こどもアンケート」(国立成育医療研究センター)
The Association of Body Image Self-Discrepancy With Female Gender, Calorie-Restricted Diet, and Psychological Symptoms Among Healthy Junior High School Students in Japan(Frontiers in Psychology 2021年10月5日)