「子どもの貧困」が発育異常にも影響 子どもへの社会的な支援が必要

 世帯所得が低い世帯は乳児の体重増加不良が1.3倍に上昇することが、北里大学医学部公衆衛生学の可知悠子氏らの調査で分かった。日本でも、子どもへの社会保障を増やしたり、低所得家庭への支援を強化する必要があると、研究者は指摘している。

子どもの貧困が社会問題に

 日本では子どもの貧困が社会問題になっている。親の社会経済状況(所得、学歴)が悪いと、生後まもなくから子どもの健康へ悪影響があるのではないかと懸念されている。乳幼児が月齢や性別からの期待値にそって発育しない「体重増加不良」は、その後の発育や認知能力に悪影響を及ぼす重篤な状態だ。体重増加不良は貧困と関連して起きやすいことが多くの研究で指摘されている。

 子育て世帯への社会保障が薄い日本では、貧困が体重増加不良に影響している可能性が考えられる。一方で、子育て世帯への社会保障が手厚いイギリスやデンマークの研究では、親の社会経済状況とその児の体重増加不良との間に関連は示されていない。

 そこで研究グループは、厚生労働省が全国規模で実施している「21世紀出生児縦断調査」に参加した2001年生まれの乳児3万4,594名と2010年生まれの乳児2万1,189名を対象に、親の社会経済状況によって生後18ヵ月までに体重増加不良に陥る割合が異なるかどうかを検討した。体重増加不良は、出生年別に出生から18ヵ月までの体重増加が最も遅い方から5パーセンタイル未満と定義した。

世帯所得が低い世帯は乳児の体重増加不良が1.3倍に

 世帯を「等価可処分所得」にもとづいて均等に2群に分けた。等価可処分所得とは、世帯の可処分所得(収入から税金や社会保険料を引いた実質手取り分の収入)を世帯人数の平方根で割って調整した額のこと。

 その結果、上位4分の1の世帯と比較して、下位4分の1の世帯では、体重増加不良に陥る割合が1.3倍高いことが明らかになった。この傾向は2001年、2010年生まれの乳児の両方で見られ、時代によらず一貫していることが示された(2001年生まれ:調整後オッズ比 1.29:95%信頼区間 1.10-1.52、2010年生まれ:調整後オッズ比 1.27:95%信頼区間 1.03-1.56)。

 さらに、親の学歴別に体重増加不良におちいる割合を比較したところ、2001年生まれの乳児のみ、両親が高校卒の場合では、大学卒以上と比較して、体重増加不良に陥る割合が1.1~1.2倍高いことが示されたが、2010年生まれの乳児では示されなかった。

子どもへの社会保障を増やすことが必要

 今回の研究では、体重増加不良のメカニズムまで特定できなかったが、「経済的理由で栄養のある食事を用意できないことや、ネグレクト(育児放棄)により栄養が不足していることが介在している可能性がある」と、研究グループは指摘している。

 乳児の体重増加不良を予防するために、親への経済支援が必要と考えられる。たとえば、日本の家族関係社会保障費のGDP比は、2001年の0.6%から2010年の1.3%に増加したが、2010年のイギリス(4.0%)やスウェーデン(3.6%)と比べ、まだ少ない現状にある。

 「子どもへの社会保障を増やすことや、また、低所得家庭への食料支援、妊娠から子育てまでの切れ目ない支援によるネグレクトの予防も対策案として挙げられる」と、研究グループは強調している。

北里大学医学部公衆衛生学
Parental Socioeconomic Status and Weight Faltering in Infants in Japan(Frontiers in Pediatrics 2018年5月1日)

記事提供:日本医療・健康情報研究所