熱中症を予防するための8ヵ条 マスク着用で熱中症リスクが上昇 マスクをはずして休憩も

 今年の夏も厳しい暑さが予測されている。気温の高い日が続くこれからの時期に、新型コロナウイルス感染症への対策を行うと同時に、熱中症の予防も行う必要がある。
気温・湿度が高い中でのマスク着用には注意が必要

 今年の夏も厳しい暑さが予測されている。近年、熱中症による健康被害が数多く報告されており、気温の高い日が続くこれからの時期に備えて、熱中症に対策しておくことは大切だ。

 とくに今年は、新型コロナウイルスへの対策を行う必要もあり、とくに注意が必要となる。夏期の気温・湿度が高い中でマスクを着用すると、熱中症のリスクが高くなるおそれがあるからだ。

 また、熱中症により救急搬送者や医療機関を受診する人が増加すると、新型コロナウイルス感染症の対応を行っている医療機関に負荷がかかってしまうため、個々で熱中症予防を行うことは重要となる。

マスクをしていると身体を冷やすのが難しくなる

 ヒトは、気温が高くなり体内に熱がこもるようになると汗をかき、呼吸をして冷えた空気を体内に取り込むことで熱を発散し、体温調節を行っている。

 しかし、マスクをしていると自分の呼吸により温められた空気しか入ってこないため、呼吸で身体を冷やすことが難しくなる。また、顔の半分ほどがマスクで覆われることで、熱がこもりやすくなる。

 さらに、マスクによる加湿で口の渇きを感じにくくなるため、熱中症に気づくのが遅くなり、とくに高齢者では熱中症になるリスクは高まると考えられている。

マスクをはずして休憩をとることも大切

 今年は外出を自粛し、家で過ごした時間の多い人が多く、屋外の暑さに慣れておらず、マスクをつけて外出することで体調を崩す可能性もある。

 熱中症を予防するために、▼こまめに水分を摂ること、▼室内では冷房を活用し、室内を涼しくすることが重要だ。

 日本救急医学会や日本感染症学会など4学会は、「マスク着用により、身体に負担がかかりますので、適宜マスクをはずして休憩することも大切です」と注意を呼びかけている。

 「ただし感染対策上重要ですので、はずす際は身体的な距離(2m以上)に配慮し、周囲環境などに十分に注意を払って下さい」としている。

 厚生労働省や環境省も、「マスクを着用している場合には、強い負荷の作業や運動は避け、のどが渇いていなくてもこまめな水分補給をこころがけてください。また、周囲の人との距離を十分にとれる場所で、適宜、マスクをはずして休憩することも必要です」と強調している。

8割の人が「暑いけどマスクははずせない」と思っている

 第一三共ヘルスケアが、全国の成人500人を対象に4月に実施したネット調査では、コロナ禍により、「暑いと感じるときでも、人目が気になってマスクが外せない」人が75%、「常にマスクをしていなくてはいけないと思っている」人が83%と、多くの人が外出時に、マスクを外してはいけないと思っていることが分かった。

 また、9割以上がワクチン接種後も「マスク着用を継続する」と回答。コロナ下で2度目の夏を迎える今年、マスク着用による熱中症のリスク増加が懸念されている。

 「マスクをしていると水を飲むこともできませんし、口の渇きを感じにくくなり、知らないうちに脱水になってしまうことも熱中症のリスクを高めてしまいます。自分の感覚を過信せず、決まったタイミングで水分補給をすることが重要です」と、済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜先生は述べている。

冷房時でも換気を エアコンの温度設定の調整が必要

 環境省は2021年4月から、熱中症予防に関する情報「熱中症警戒アラート」を新たに全国で開始した。熱中症警戒アラートは、熱中症の危険性が極めて高い暑熱環境になると予想される日の前日夕方、または当日早朝に、都道府県ごとに発表される。

 「発表されている日には、外出を控える、エアコンを使用するなどの、熱中症の予防行動を積極的にとりましょう」と注意を呼びかけている。

 新型コロナウイルス感染症を予防するためには、冷房時でも換気扇や窓開放によって換気を確保する必要がある。そうすると室内温度が高くなるので、「熱中症予防のためにエアコンの温度設定をこまめに調整する」ことを呼びかけている。

 さらに、屋内運動施設などでの運動は、感染症のクラスター(集団感染)が発生するリスクが高いので、自治体の情報にしたがうよう求めている。

熱中症を予防するための8ヵ条
■ 暑いときや体調不良のときは無理をしない

 日頃の体温測定、健康チェックは、新型コロナウイルス感染症だけでなく、熱中症を予防する上でも有効だ。体調が悪いと体温調節機能も低下し、熱中症につながりやすい。

 疲労、睡眠不足、発熱、かぜ、下痢など、体調の悪いときには無理に運動などをしないことが大切。体力の低い人や、糖尿病の人、暑さに慣れていない人、熱中症を起こしたことのある人などはとくに注意が必要になる。

■ 水分を補給 塩分(ナトリウム)を入れると効率的

 汗からは水分と同時にナトリウム(塩分)も失われる。ナトリウムが不足すると熱疲労からの回復が遅れるので、適度に補う必要がある。

 身体には約0.9%の食塩水と同じ浸透圧の血液が循環している。汗にはナトリウムが含まれており、大量に汗をかいてナトリウムが失われると、水だけを飲むと血液のナトリウム濃度が薄まり、水を飲む欲求がなくなることがある。この状態になると、汗をかく前の体液の量を回復できなくなり、熱中症の原因になる。

 体の状態によって必要な対応は変わってくるが、暑さがひどいときは、0.1~0.2%の食塩(ナトリウム40〜80mg/100mL)を含む補水液などを飲む。補水液は1Lの水にティースプーン半分の食塩(2g)を溶かして、自分で作ることもできる。

■ スポーツドリンクに注意

 水分補給にスポーツドリンクを利用する人も多いが、エネルギー補給の目的で糖質を含んでいるものが多く、減量や血糖コントロールをしている人では効果が減じてしまう。

 スポーツドリンクの特徴は、発汗などで失われるナトリウム、カリウムなどの電解質を含んでおり、吸収を早めるために体液に近付けた浸透圧にしてあること。必要な場合は、糖質を含まない低カロリーのものを利用する方法もある。

■ 体を熱さに慣れさせる

 高温多湿の環境での体温調節能力に、暑さへの慣れ(暑熱順化)が関係する。

 暑くなりはじめの時期から適度に運動(やや暑い環境で、ウォーキングなどのややきついと感じる強度の運動を、毎日30分程度続ける)をこころがけ、身体が暑さに慣れるようにしよう。

 その際も、水分補給を忘れずに行い、無理のない範囲で実施する。

■ 運動する時間帯に注意

 運動や体を動かすときは、日中の暑い時間は避け、朝や夕方の涼しい時間帯を利用すると効果的だ。天気予報をみて、気温が上昇したり湿度の高い日には、午前11時から午後3時の運動は避ける。

 気温が上がると心拍数が増えるので、特に運動中に心拍数がいつもより高い場合には注意が必要となる。ウォーキングなどの運動を行うときは、木陰で休憩をとりながら行うと安全だ。

■ 準備は十分に 服装に注意

 運動をするときは、休憩を頻繁にとって、水分を十分に補給することが大切だが、服装にも注意が必要だ。

 熱中症を予防するための服装のポイントは、(1)体の熱をスムーズに放射させる機能のあるもの、(2)外気からの熱の吸収を抑えるもの。

 暑い時には服装は軽装にし、吸湿性や通気性の良い素材を使ったものを使用する。屋外で直射日光がある場合には、色の濃いものを身に付けるのを避けて、日傘や帽子も活用しよう。

■ アルコールを避ける

 アルコールは水分補給の代わりにならないので注意が必要。アルコール飲料を飲むと体の脱水が促される。

 アルコールを飲むと、十分に水分補給したと思っていても、実際には体から水分が失われており、熱中症やケガを起こしやすくなる。

■ 薬を飲んでいる人は要注意

 降圧剤である利尿薬は、尿を出して血液量を減らして血圧を下げる薬。利尿薬には水分を排泄する作用があり、脱水を起こすことがあるため、熱中症には注意が必要になる。

 また、糖尿病の治療薬である「SGLT2阻害薬」は、血液中の余分な糖分を尿と一緒に排泄するため、脱水になりやすいという副作用がある。これを飲んでいる人は、水分補給を忘れずに行いたい。

 こうした薬を飲んでいる人は、夏場になる前に医師に相談しよう。

暑さ指数を意識した熱中症対策が必要

 外出時は、天気予報や「暑さ指数(WBGT)」を参考に、暑い日や時間帯を避け、無理のない範囲で活動することが役に立つ。

 WBGTとは、熱中症が起きやすい外的環境を知るための指標で、気温だけでなく、湿度や輻射熱を考慮した判断が可能になる。その内訳は気温:湿度:輻射熱が1:7:2であることから、気温だけでなく、湿度や輻射熱をも考慮した判断が可能になる。

 気温だけでなく、この暑さ指数(WBGT)を意識した生活指導が必須であり、これを用いた屋外活動の可否判断が重要だ。

 WBGTが21度以上では熱中症による死亡事故が発生する可能性があり、運動の合間に積極的に水分補給が必要。28度以上では、激しい運動や持久走などの体温が上昇しやすい運動は避け、31度以上では、運動は原則中止するのが望ましいとしている。小児の場合は、さらに厳格な対応が必要となる。

熱中症になりやすい人には声掛けを

 また、小児や高齢者、持病のある人は体温調節機能が弱い「熱中症弱者」として認識する必要がある。これらの人々は熱中症にかかりやすい。周囲にいる者同士が、お互いに注意をし合い、少しでも異常がみてとれたら、熱中症を疑い適切に対処することが重要だ。

・ 高齢者では全身に占める水分の割合が低く、容易に脱水になりやすい。脱水になると発汗の機能が低下し、体温調整が困難となる。
・ 小児では汗腺の発達や自律神経が未熟で、高齢者や持病のある方は自律神経の機能が低下しており、体温調節機能が弱い。
・ 身長が低い人は、地面からの輻射熱の影響を受けやすい。
・ 自分で予防する能力が乏しい。

環境省 熱中症予防情報サイト
熱中症のかかりやすさを示す「暑さ指数(WBGT)」を公表している。
厚生労働省 熱中症関連情報
熱中症予防に対する取組みや、職場における労働衛生対策などを公開している。
スポーツ庁 自宅や屋外で安全に運動をするポイント
新型コロナウイルス感染症の拡大防止と運動・スポーツの実施における留意点などについて情報を提供
日本救急医学会 新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症予防に関する提言
熱中症予防 厚生労働省が公開しているポスター