【子宮頸がん】HPVワクチンの積極的勧奨中止で女性の感染率が上昇 キャッチアップ接種が必要

 新潟⼤学は、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨中止が、HPV感染率にもたらした影響を、大規模疫学研究「NIIGATA study」により解析した。

 積極的勧奨の中止後の世代で、「ワクチンの標的型であるHPV16/18型の感染率が、ワクチン導入前の世代と同水準まで上昇をはじめている」ことを明らかにした。HPVワクチンが普及すれば、HPV16/18型の感染率を、ゼロにまで低下させることも可能だ。

 厚生労働省は、2013年以降中止していたHPVワクチン接種の積極的勧奨を、2022年4月より再開することを決定した。

 しかし、積極的勧奨の差し控えの期間に12~16歳だった年代(2022年度の17~25歳の女性)には、HPVワクチンの接種を受けるチャンスを逃している女性が多くいる。

 そうした女性を対象に、2022年4月より「キャッチアップ接種」が開始される。「今後、NIIGATA studyでは、キャッチアップ接種の有効性を解析し、国民への発信を続けていく予定です」と、研究者は述べている。

女性3,795人を対象に、ワクチン積極的勧奨中止による、HPV感染率への影響を調査

 研究は、新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の榎本隆之教授、関根正幸准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Lancet Regional Health – Western Pacific」に掲載された。

 ヒトパピローマウイルス(HPV)は、性行為を通じて子宮頸部に感染し、HPV16/18型などの高リスク型が、子宮頸がんの発症に関与している。

 HPVは、子宮頸がんのほかにも、肛門がん、口腔咽頭がん、外陰がん、膣がん、陰茎がんの原因になる。子宮頸がんなどを予防するためのHPVワクチンは、2013年に無料で受けられる定期接種の対象になった。しかし同年、厚生労働省は積極的な接種の勧奨を中止した。その結果、接種対象者の接種率は、積極的勧奨が停止した世代では1%以下に激減した。

 定期接種に組みこまれていたのは、高リスク型のHPV16/18型を標的とした2価ワクチン(サーバリックス)、またはHPV6/11/16/18型を標的とした4価ワクチン(ガーダシル)。

 研究グループは今回の研究で、2014~2020年度の20~21歳(1993~2000年度生まれ)の女性3,795人を対象に、ワクチン積極的勧奨中止による、HPV感染率への影響を解析した。

関連情報

ワクチン接種により高リスク型ウイルスの感染率はゼロに 接種率の減少により再び上昇

 公費接種の導入によりワクチン接種率は、2014年度の30.8%から2015年度には87.8%、2016年度には90.0%に達し、2019年度まで90%前後を維持していた。しかし、2020年度になり42.4%まで激減した。

 これにあわせて、HPV16/18型の感染率は、2014年度の1.3%から、ワクチン接種率の増加にともない2015年度、2016年度は0.4%、2017年度にはゼロになった。その後も、2018年度は0.4%、2019年度は0.5%にとどまっていた。

 しかし、2020年度には1.7%に再上昇した。HPV16/18型感染率は、HPVワクチンを接種していなかった以前の世代と同水準にまで再上昇してしまったことになる。

ワクチン積極的勧奨の中止後の世代で、HPV16/18型の感染率が急増した

出典:新潟大学、2022年

接種のチャンスを逃した女性へのキャッチアップ接種が必要

 新潟⼤学の研究グループはこれまで、日本人女性20~22歳を対象に、ワクチンのHPV感染に対する予防効果を検討し、ワクチン有効率の93.9%を占めるHPV16/18型に加えて、HPV31/45/52型に対しても、ワクチンが標的としたウイルス株とは異なるウイルスにも感染予防効果を発揮する「クロスプロテクション効果」がみられることも報告していた。

 新潟大学の研究グループを中心に、HPVワクチンの有効性に関する複数の研究成果が国内で発表されたことで、厚生労働省は2022年4月より12~16歳女子に対するHPVワクチン接種の積極的勧奨を再開することを決定した。

 「積極的勧奨差し控えの期間に12~16歳であった年代(2022年度の17~25歳女性)には、HPVワクチンの接種を受けるチャンスを逃している女性が多くいます。それらの女性を対象に、2022年4月よりキャッチアップ接種が開始されます」と、研究グループでは述べている。

 キャッチアップ接種とはね積極的勧奨の差し控えにより接種の機会を逃していた人に対して、公平な接種機会を確保する観点から、従来の定期接種の年齢を超えてワクチン接種を行うこと。

 「今後NIIGATA studyでは、キャッチアップ接種の有効性を解析し、国民への発信を続けていく予定です」としている。

新潟大学医学部産科婦人科学教室
Suspension of proactive recommendations for HPV vaccination has led to a significant increase in HPV infection rates in young Japanese women: real-world data (Lancet Regional Health – Western Pacific 2021年10月21日)