抗菌薬の取り置きやその使用は減少 抗菌薬に関する知識はまだ十分ではない 「抗菌薬意識調査レポート2023」より

 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンターによる「抗菌薬意識調査レポート 2023」がこのほど発表された。

 市民の抗菌薬に関する知識はまだ十分とは言えないが、抗菌薬の取り置きや不適切な使用は減少している様子が明らかになった。

抗菌薬の取り置きや不適切な使用は減少傾向に

 感染症の治療に必要な抗菌薬や抗生物質が効かない薬剤耐性(AMR)の問題が世界中で深刻化している。1980年代以降、抗菌薬・抗生物質の不適切な使用などを背景に新たな薬剤耐性菌が増加。一方、先進国における主な死因が感染症から非感染性疾患へと変化し、新たな抗菌薬の開発は減少している。

 そのため2015年、世界保健機関(WHO)総会で薬剤耐性に関する国際行動計画が採択された。日本でも16年に「薬剤耐性対策アクションプラン」を発表。薬剤耐性についての取り組みを進めている。

 このような中、同調査は一般の人々が薬剤耐性についてどのように認識しているのかを把握することを目的に、インターネット調査で2023年9月に実施。調査対象は全国の15歳以上・男女700人で、結果はレポートとしてまとめられた。

 調査の結果、「抗菌薬はウイルスをやっつける」は間違いだと正しく回答した人は14.7%、「抗菌薬はかぜに効く」は間違いと正しく回答した人は23%と低かった。これらの結果は直近3年間で大きな変化はなく、抗菌薬に関する知識は不十分なままと言える。


出典:「抗菌薬意識調査レポート2023」

 一方、「家にとってある抗菌薬・抗生物質がある」と回答した人は15.9%で、昨年より11.5ポイント減少。「とっておいた抗菌薬・抗生物質を自分で飲んだことがある」と回答した人は17.5%で昨年比8.0ポイント減少した。



出典:「抗菌薬意識調査レポート2023」

 報告書ではこの点について「新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に医療機関への受診が控えられ薬の取り置きが増えたが、パンデミック以前の社会経済生活に戻りつつある現在、以前の受療行動に戻りつつあるのかもしれない」と考察している。

 ただし、「抗菌薬・抗生物質という言葉を聞いたことがある」と回答した人で、「とっておいた抗菌薬・抗生物質を飲んだことがある」や「他人の抗菌薬・抗生物質を飲んだことがある」と回答した人の割合は、15歳以下の子どもがいる人が、15歳以下の子どもがいない人に比べて2倍以上高かった。

 小さな子どもを持つ保護者の方が、抗菌薬の服用に関して不適切な行動をしている可能性がある。

 そのほか調査では、感染対策やオンライン診療についても聞いており、基本的な感染症対策を行う人は昨年より減少しているが高水準を維持していること、診療・服薬指導に関するオンライン化については現時点でまだ認知度が低いことなどを明らかにしている。

■加藤哲太先生(一般社団法人 日本くすり教育研究所 代表理事)からのコメント

 医療従事者(医師、薬剤師、看護師、保健師等)さらにはマスコミなどを通じて、指導・助言を行う機会は増えてきているにもかかわらず、市民の抗菌薬に関する知識はまだ十分でないことが今回の結果から判明した。

 薬剤耐性の問題が世界中で深刻化している現実を考えると、「かぜ薬の対症療法、感染症における抗菌薬の適正使用(耐性菌に触れる)」など疾病と医薬品に関する情報・教材を医療従事者が共有し、協働で指導を行っていく必要性があると感じる。

抗菌薬意識調査レポート2023年(AMR臨床リファレンスセンター)
一般社団法人 日本くすり教育研究所


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