肥満やメタボは心にも傷跡を残す 肥満の人はメンタル不調になりやすい 保健指導では心理面にも配慮

 過去に肥満やメタボだった時期のある人は、その後に減量をしてやせたとしても、メンタルヘルスの不調を経験することが多く、早期死亡のリスクとも関連していることが、4万1,000人超が対象の調査で明らかになった。

 肥満やメタボの多くは、食事や運動などの生活スタイルの改善により、内臓脂肪がたまるのを防ぎ改善できることが分かっている。

 しかし、過体重や肥満の背景には、遺伝(体質)によるものと、環境によるものの両方があり、生育や発達での要因、社会的な要因、ストレスなどがさまざまに影響しているとしている。

 これまで肥満は、ストレスやうつ病などのメンタル不調とも関連が深いことが報告されている。肥満を解消し、健康的な体重を維持するために、ストレスを上手に管理することも必要だ。

 「肥満者への保健指導では、メンタル面への配慮も欠かせません」と、研究者は述べている。

肥満だった経験は長期的に心理的影響を及ぼす

 研究は、5月にアイルランドで開催された欧州肥満学会(EASO)の年次学術会議で発表されたもの。

 「多くの人にとって、自分が肥満だったという経験は、心理的影響を長期的に及ぼし、たとえ減量に成功したとしても、その影響はかなり長いあいだ持続する可能性があることが示されました」と、英国のリバプール大学でポピュレーション医療や心理学を研究しているアイ グスティ ングラ エディ プトラ氏は言う。

 「これまでの調査でも、体重を減らしてやせるのに成功し、現在は肥満と判定されなくなった人でも、過去に肥満だったという理由で、偏見をもたれるのではないかと不安になっている人は多いことが示されています」としている。

 研究グループは、米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した2万9,047人の成人男女と、米国退職者健康調査(HRS)に参加下1万1,998人のデータを解析した。

過去に肥満だった人はうつ病などのメンタル不調のリスクが高い

 その結果、過去に肥満だった時期のある人は、肥満だったことがない人に比べ、その後もうつ病などのメンタル不調を示すスコアが高い傾向があることが分かった。

 減量に成功し、現在は健康的な体重になっている人でも、やはりうつ症状や孤独、不安、絶望感などを示す指標が高い傾向があり、心理的幸福度の低下につながっている可能性が示された。

 さらに、肥満歴があった人は現在の体重とは関係なく、早期死亡のリスクが30%高いことが示された(NHANESでは31%高く、HRSでは34%高かった)。

肥満のある人への保健指導では心理的サポートについても配慮

 「過去の肥満と心理的健康との関連で、研究全体を通じて、肥満と判定されなくなった人でもネガティブな影響が残ることが示されました。過去の肥満だった経験が、心理的な傷跡を残している可能性があります」と、プトラ氏は指摘する。

 肥満だったことのある人では、物事の意思決定や行動の選択に対処するのを困難に感じる人が少なくなく、自身の感情を把握し、外にあらわすのを苦手に感じる人も多く見受けられるとしている。

 「肥満のある人への保健指導では、心理的サポートについても配慮することで、その後のメンタル不調のリスクを軽減できる可能性があります」としている。

 なお、今回の研究は観察データにもとづいており、関連性のみを示したもので、因果関係を証明するものではないと、付け加えている。肥満とうつ病などの関連を解明するために、さらなる研究が必要としている。

Past obesity is associated with worse current mental health and this may increase the risk of an early death, UK research suggests (欧州肥満学会 2023年5月17日)


掲載記事・図表の無断転用を禁じます。
日本医療・健康情報研究所]Copyright@2023 Soshinsha.