子供や若者の生活習慣行動とウェルビーイングの関連を調査 小学校の独自の取り組みを通じた共同研究を開始 立教大学と東京都昭島市

 立教大学は、東京都昭島市の公立小学校全校と連携し、児童約5,500人を対象にした大規模な調査を実施し、日常での健康的な生活習慣行動と子供たちの心身の良い状態(ウェルビーイング)との関連について調べる共同研究を開始する。

 同市が独自に行ってきた子供の健康的な生活習慣行動を促す取り組みが、子供たちのウェルビーイングとどのように関連するのかを科学的に検証する。

 ユニセフの発表では、日本の5~14歳の子供は、「身体的健康」では先進国38ヵ国で1位だが、「精神的に良い状態(メンタルウェルビーイング)」では37位と最低であることが示されている。

子供たちの健康的な生活習慣とウェルビーイングの関連を調査

昭島市の取り組み
「グットモーニング60分」

 立教大学は、東京都昭島市の公立小学校全校と連携し、児童約5,500人を対象にした大規模な調査を実施し、日常での健康的な生活習慣行動と子供たちの心身の良い状態(ウェルビーイング)との関連について調べる共同研究を開始する。

 東京都昭島市の公立小学校では、「グットモーニング60分」と題して、起床から登校までに60分の時間を確保することで、子供たちの生活習慣を改善しようという独自の取り組みを行っている。

 同市が市内小学校の4,145人を対象に行った調査では、この取り組みの達成率が高い子供は、朝食習慣や朝の排便習慣が身に付き、睡眠不足を感じにくく、さらに運動習慣が身に付きやすい傾向があることが示された。

 研究グループは、昭島市が独自に行ってきた日常の健康的な生活習慣行動を促すこの取り組みが、子供たちのウェルビーイングとどのように関連するのかを、これまでに行ってきた研究にもとづき科学的に検証する。

関連情報

朝食をとる習慣と運動習慣がポジティブな気分スコアに関連

 研究は、立教大学スポーツウエルネス学部の川端雅人教授(クイーンズランド大学名誉准教授)らによるもの。

 川端教授は、前任校のシンガポールの南洋理工大学在籍時に、スティーブ バーンズ准教授らとともに、朝食摂取と身体活動が、(1) 児童生徒の認知機能や学業成績や、(2) 登校時の気分とどのように関連しているのかを、実験と調査を通じて明らかにする研究プロジェクトを実施した。

 14〜19歳の計365人の小児や若年者を対象に調査した結果、朝食をとる習慣が不規則な子供は、ネガティブな気分スコアが高く、ほぼ3分の2の64.1%は平日に中・高強度の身体活動(MVPA)を行う時間が60分未満で、そうした運動不足の子供は朝のポジティブな気分スコアが低い傾向があることや、睡眠時間が8時間未満の子供は88.3%と多いことなどが分かった。

 別の研究では、朝食と運動習慣が子供の短期的な学業成績と認知能力に及ぼす影響を検証するため、14~19歳の計82人の小児や若年者を対象に、4つのグループに分けて比較した。その結果、朝食をとる習慣と運動を行う習慣があると、学業成績などが良好であることが分かった。

 朝食をとる習慣があり、平日に60分以上のMVPAに取り組み、日常生活で運動や身体活動を行う習慣があることが、学校生活のウェルビーイングを高めるのに効果的であることが示唆された。

 これらの調査や実験による研究の成果は2021年に「Nutrients」に、調査による研究結果は2022年に「Nutrition and Health」に、それぞれ発表された。

日本の子供や若者のメンタルウェルビーイングは先進国で最低

 今回の研究では、昭島市立光華小学校の校長である眞砂野裕氏をはじめとする同市立小学校校長、養護教諭や教諭、シンガポールの南洋理工大学のスティーブ バーンズ准教授らと協力しながら、実践的な視点とともに、国際的視点のある研究を行うとしている。

 日本は先進7ヵ国の枠組みに参加する世界の主要先進国のひとつだが、ユニセフが2020年に発表した「レポートカード16」によると、5~14歳の子供の生存率と過体重のデータにもとづく「身体的健康」では、先進国38ヵ国のなかで1位になった一方で、15歳児の人生満足度と15~19歳の青少年の自殺率のデータにもとづく「精神的に良い状態(メンタルウェルビーイング)」では、第37位という結果だった。

 世界保健機関(WHO)の健康の定義をふまえると、子供の健康を考えるうえで、身体的な状態と精神的な状態のあいだに極端な差が生じている状況を改善することは、日本の急務になっている。

 「まず適切な研究手法を用いて、子供たちのウェルビーイングに影響を与えうる要因を明らかにする必要があります。そのうえで科学的データにもとづいて、子供たちのウェルビーイングを認識し、その状態を得るための知識と技能を子供たちが身に付けられるよう支援する体制や対策を整え、子供たちを取りまく環境(家庭、学校、社会)の改善につなげることが求められます」と、研究者は述べている。

 「その意味でも、今回の昭島市の公立小学校との共同研究の結果は、非常に重要です。この研究の進捗状況については、また随時お知らせする予定です」としている。

立教大学スポーツウエルネス学部
Weekday breakfast habits and mood at the start of the school morning (Nutrition and Health 2022年6月1日)
Breakfast and Exercise Improve Academic and Cognitive Performance in Adolescents (Nutrients April 2021年4月13日)

Worlds of Influence: Understanding what shapes child well-being in rich countries: Innocenti Report Card 16 (ユニセフ )
Children’s wellbeing in world’s wealthiest countries took sharp turn for the worse in wake of COVID-19 pandemic – UNICEF (ユニセフ 2025年5月13日)


掲載記事・図表の無断転用を禁じます。
日本医療・健康情報研究所]Copyright@2025 Soshinsha.