食中毒
細菌性食中毒
食中毒を引き起こす主な原因は、「細菌」と「ウイルス」です。このうち細菌が原因となる食中毒を細菌性食中毒といい、2022年には食中毒全体に対し、件数で27%、患者数で52%を占めています(食中毒 – 統計資料, 厚生労働省)。細菌は温度や湿度などの条件が揃うと食物中で増殖し、その食物の摂取で食中毒を発生します。
細菌性食中毒は夏場(6月~8月)に多く発生しています。これは細菌が最も繁殖する温度が37~40℃であることから、食材、食品内で繁殖しやすいためです。
細菌性食中毒は基本的には、細菌の性質を理解し、「細菌を付けない、増やさない、死滅させる」ことにより防ぐことができます。
細菌性食中毒の原因菌とその特徴
細菌性食中毒は通常、感染型と毒素型に分類されます。
感染型
食品内で細菌が増殖し、食品とともに体内に入った細菌や腸管内で増殖した細菌が、腸管の表面に定着したり、腸管細胞の内部に感染したりして起こる食中毒をいいます。腸管の炎症性変化が観察されるものが多く、毒素型に比べると一般に潜伏期間は長いのが特徴です。
代表的原因菌:サルモネラ・腸炎ビブリオなど
毒素型
食品内や腸管内で細菌が産生した毒素を摂取することで起こる食中毒です。
代表的原因菌:黄色ブドウ球菌・ボツリヌス菌など
原因である食事の時間から発症までの時間(潜伏期間)や食中毒の強さは原因菌の種類で変わります。
細菌性食中毒の主症状は、下痢、嘔吐、腹痛、発熱です。原因菌によって下痢が激しいもの、嘔吐が激しいなどの違いがあります。
予防方法
「食品を衛生的に扱い食中毒の原因菌を食品に付着させない」ためには、清潔な調理環境・調理器具で、清潔な手指の調理者が料理することが大切です。
細菌の生育には「温度」「水分」「栄養」の3条件が必要です。低温保存、塩漬け、砂糖漬け、乾燥などは細菌の増殖を抑えるのに有効です。
加熱により菌を完全に死滅させ、食中毒を防ぐことが多くの場合可能です。しかし芽胞形成菌(ウエルシュ、セレウス、ボツリヌスなど)は100℃では死滅しないことに注意してください。
食品は低温保存で劣化しにくく、鮮度が保たれます。そこで活躍するのが冷蔵庫や冷凍庫です。しかし、冷蔵庫や冷凍庫の保管で、安全を過信するのは危険です。扉を頻繁に開閉していると、庫内の温度が高くなります。また、エコの意識から誤った温度設定をすると危険です。冷蔵室は10℃以下、冷凍室は-15℃以下にキープしましょう。
表1は、日本で発生している食中毒の原因菌をピックアップし、特徴や予防ポイントを挙げています。
菌名 感染型 毒素型 |
主な原因食品 | 潜伏期間 | 症状 | 予防ポイント | |
---|---|---|---|---|---|
エルニシア属菌 | 加工乳、水道水(簡易水道)、サラダ、汚染されたブタ肉の加熱調理不足等 | 2~5日 | 下痢、腹痛、発熱で、虫垂炎、関節炎、咽頭炎等 |
|
|
腸管出血性大腸菌(O157) | 牛肉を始めとして、野菜、果物、ジュースなど多様な食品 | 1~10日 | 激しい腹痛、血便などが主症状、重症では溶血性尿毒症候群や脳症を併発 |
|
|
ウエルシュ菌 | 魚介類、野菜などを使った加熱調理品を長期間保存 | 6~18時間 | 腹痛、下痢が主症状 |
|
|
カンピロバクター | 食肉(特に鶏肉)、飲料水、生野菜など | 1~7日 | 発熱、倦怠感、頭痛、吐き気、腹痛、下痢、血便などが主症状 |
|
|
コレラ | コレラ菌に汚染された水や食品の摂取 ほぼ海外での感染 輸入食品などからの感染 |
数時間から5日間 | 軽度の下痢または嘔吐、重症は水様便 発熱や腹痛は無い場合が多い |
|
|
サルモネラ属菌 | 生肉、特に鶏肉と卵 | 6~72時間 | 腹痛、下痢、発熱、嘔吐などが主症状 |
|
|
赤痢 | 赤痢菌に汚染された水・氷・食品などの摂取 | 1~5日(通常1~3日) | 1~2日の発熱とともに、腹痛・下痢症状 血便やしぶり腹 |
|
|
セレウス菌 | 下痢型 | 食肉製品 | 8~16時間 | 下痢、腹痛が主症状 |
|
嘔吐型 | ピラフ、スパゲティなど | 30分~3時間 | 吐き気、嘔吐が主症状 |
|
|
腸炎ビブリオ | 生の魚介類 | 6~12時間 | 腹痛、水溶性下痢、発熱、嘔吐など |
|
|
黄色ブドウ球菌 | 乳製品、卵製品、畜産製品、握り飯、魚肉ねり製品など | 1~3時間 | 吐き気、嘔吐、腹痛、下痢など |
|
|
ボツリヌス菌 | 缶詰などの密封食品、いずしや蜂蜜製品など | 8~36時間 | 吐き気、嘔吐、筋力低下、脱力感、便秘など(まれに視力障害などの神経症状) |
|
(参考資料:学校給食調理従事者研修マニュアル;文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課、東京都健康安全研究センター、国立感染症研究所)
普段から規則正しい生活を心がけ、食中毒の原因菌に対する抵抗力を備えた体を養うことが最も大切です。体調不良時は、生ものは避けるほうがよいでしょう。もしも食中毒が疑われるような症状(下痢、嘔吐、腹痛、発熱、血便など)の場合は、まず脱水症状を防ぐために経口補水液などで水分と塩分を補給し、早急に医療機関を受診しましょう。
注意することは、整腸剤(注)は基本的に使用しても差し支えありませんが、下痢止めは推奨されていません。その理由は原因菌の排泄を遅らせる可能性があるからです。また、似ている症状でも、著しく激しい腹痛や下痢が長時間続く、便に血や粘膜が混じる、便の色が通常と異なる場合(緑、黒、赤、白など)は、内臓疾患が発症していることもあります。早めに医師の診断を受けましょう。
(注)整腸剤の一部には、牛乳アレルギーがある人に使用注意の場合があります。
細菌性食中毒の関連情報は下記から得られます。
- 1.食中毒と腸管感染症 国立感染症研究所
- 2.食中毒・食の安全Q&A (公社)日本食品衛生協会
- 3.食中毒に関する情報 厚生労働省
- 4.食中毒を防ぐ3つの原則・6つのポイント 政府広報オンライン
- 5.食中毒菌などの話(公社)日本食品衛生協会
- 6.食品衛生の窓 東京都保健医療局