食物アレルギー

 人間には、体に異物であるもの(抗原)が侵入した時、それに対抗する物質(抗体)を作り、抗原を排除するシステムが存在します。このシステムを免疫といいます。免疫は、細菌やウイルスなどの外敵が侵入した際に生体を守るために生じる反応ですが、生体にとって害ではない花粉や食物に対しても、生体が外敵とみなして反応するために、様々な症状が引き起こされることがあります。これをアレルギーといいます。
 食物を摂取した際、身体が食物に含まれるアレルギー原因物質(アレルゲン:大部分は蛋白質)を認識し、自分の体に不利益な症状を起こす場合を「食物アレルギー」と呼びます。近年、食物アレルギーは乳幼児から成人まで発症が増加し、重篤なアナフィラキシーショック症状(急激な血圧低下、呼吸困難、意識障害が起こっている状態)で、死亡することもあります。

食物アレルギーの表示制度

 食物アレルギーの表示制度は、平成27年4月から食品表示法の規定に基づく食品表示基準及び関連通知等で規定されており、食品での健康被害を防止する目的で、アレルギー症状を起こす物を表示することになっています。特定原材料を含む加工食品、特定原材料由来の添加物を含む生鮮食品の一部及び特定原材料に由来する添加物について表示が求められています。

特定原材料(食品表示基準で定められたもの)

 特にアレルギーを起こしやすいとされる食品のうち、発症数、重篤度から考えて表示する必要が高いものとして表示が義務化された8品目

特定原材料:必ず表示される8品目
卵、乳、小麦、落花生、えび、そば、かに、くるみ

特定原材料に準ずるもの(通知で定められたもの)

 症例数や重篤な症状を呈する者の数が継続して相当数みられるが、特定原材料に比べると少ないものとして表示することが推奨された20品目

特定原材料に準ずるもの:表示が勧められている20品目
いくら、キウイフルーツ、大豆、バナナ、やまいも、カシューナッツ、もも、ごま、さば、さけ、いか、鶏肉、りんご、まつたけ、あわび、オレンジ、牛肉、ゼラチン、豚肉、アーモンド

 特定原材料に準ずるものについては表示が義務付けられていません。したがって、これらの品目にアレルギーをおこす可能性がある人は十分な注意が必要です。なお、特定原材料及び特定原材料に準ずるものは実態調査等に基づいて見直されています。令和5年3月9日には、くるみによるアレルギー症例数の増加等を踏まえて食品表示基準が改正され、くるみが「特定原材料に準ずるもの」(表示推奨)から「特定原材料」(表示義務)に格上げされることになりました。このため、原材料に「くるみ」を含む食品を製造している事業者は、経過措置期間(令和7年3月31日まで)以内に表示ラベルの切り替えを行うことになります。

表示例 (個別表示)
表示例 (一括表示)

発症の実態

 令和3年度の実態調査によると、症例全体において、アレルギーの原因物質は鶏卵、牛乳、木の実類の順で多いようです。前回の調査まで上位3品目は鶏卵・牛乳・小麦でしたが、令和3年度では小麦に変わり木の実類が入りました。これは、国内消費量の増加が要因の一つと考えられています。
 原因食物は、年齢により異なります。下表に示すように、初発例の原因食物は0歳では鶏卵、牛乳、小麦の順ですが、加齢とともに大きく変化し、甲殻類が多くなってきます。
 また1歳前に発症した食物アレルギーは一般的に大豆・小麦・牛乳・鶏卵の順に耐性を獲得し自然寛解しやすいのに対し、そば・落花生・果実類がアレルゲンで幼児・学童・成人で発症した食物アレルギーは寛解しにくいと言われています。

年齢群別原因食物(初発例)
0歳(1,736) 1・2歳(848) 3-6歳(782) 7-17歳(356) ≧18 歳(338)
1 鶏卵 61.1% 鶏卵 31.7% 木の実類 41.7% 甲殻類 20.2% 小麦 19.7%
2 牛乳 24.0% 木の実類 24.3% 魚卵 19.1% 木の実類 19.7% 甲殻類 15.8%
3 小麦 11.1% 魚卵 13.0% 落花生 12.5% 果実類 16.0% 果実類 12.6%
4 落花生 9.3% 魚卵 7.3% 魚類 9.8%
5 牛乳 5.9% 小麦 5.3% 大豆 6.6%
6 木の実類 5.5%
小計 96.1% 84.2% 73.3% 68.5% 69.9%

注釈:各年齢群で5%以上の頻度の原因食物を示した。また、小計は各年齢群で表記されている原因食物の頻度の集計である。
原因食物の頻度(%)は小数第2位を四捨五入したものであるため、その和は小計と差異を生じる。

令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書
令和4年3月消費者庁

症状

 食物摂取後に免疫を介して以下に示すような様々な症状が現れます。食後に異常な症状が発現しても、免疫が関与していなければ「食物アレルギー」とは言いません。これら症状は即時型と非即時型(あるいは遅発型、遅延型)に分けられます。
 即時型;2時間以内に発症。蕁麻疹、かゆみ、口唇浮腫、咳、嘔吐、アナフィラキシー
 非即時型;半日くらいから数日経ってから発症。頭痛、めまい、うつ、などの精神神経症状、肩こり、慢性疲労など一見関係のないような多彩な症状、乳幼児期のミルクなどが関与した腸炎による下痢など

皮膚:紅斑、蕁麻疹、血管性浮腫、そう痒、湿疹など
消化器:口腔違和感、口唇浮腫、悪心、嘔吐、腹痛、下痢など
呼吸器:くしゃみ、鼻汁、鼻閉、咳嗽、喘鳴、呼吸困難、胸部圧迫感、咽喉頭浮腫など
眼:結膜充血・浮腫、眼瞼浮腫など
神経:頭痛など
全身性:アナフィラキシー(アレルゲンなどの侵入により皮膚、呼吸器、消化器など複数の臓器にアレルギー症状があらわれた状態、急激な症状悪化から死に至る可能性もある)

特殊な食物アレルギー

食事依存性運動誘発アナフィラキシー

 通常、特定の食物を摂取後、2時間以内に運動した場合に発症がみられ、入浴でも起こることがあります。10~20歳代が初回発症年齢のピークと報告されています。原因食品の大部分は、小麦、えびなどの甲殻類と果物です。しかし、特定の食物摂取と運動負荷があれば必ず発症するわけではなく、発症には「食物+運動負荷」にいくつかの増強因子(下表;発症に関与する要因)が関与します。アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬は増強因子の一つです。

発症に関与する要因

  • 運動:負荷量、種類、食事後の間隔・入浴
  • 食物アレルゲン:量、種類、組み合わせ、すべて
  • 全身状態:疲労、寝不足、感冒
  • 気象条件:気温:高温、寒冷  湿度:高い
  • 自律神経系:ストレス
  • 薬剤:NSAIDs、アスピリン、アルコール
  • 家族性
  • 月経:女性ホルモン
  • 分娩
  • 花粉:野菜、果物
  • 化粧品:加水分解小麦含有

*食物依存性運動誘発アナフィラキシーは食物アレルギーの特殊型に分類される。
通常の即時型反応とは異なり、特定の食物摂取と運動負荷に加え、上記に示す複数の修飾因子が発症に関与すると想定される

食物以外の抗原感作による食物アレルギー

 口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome, OAS)
 ある特定の果物や野菜などを食べることで、口腔・咽頭粘膜の過敏症状(主としてかゆみや腫れなど)が起きることをいいます。
 この反応は、花粉症の人に比較的高率に発現することが知られており、特に花粉症の患者が、果物や野菜を食べたときに起こる口腔アレルギー症状を「花粉-食物アレルギー症候群(pollen-food allergy syndrome, PFAS)」と呼んでいます。これは、食物と花粉との間に共通するアレルゲンがあるためと考えられており、口腔咽頭症状に限らず全身に発症(蕁麻疹、嚥下困難、喉の狭窄感、顔面腫脹、喘鳴)する場合もあります。ジャムなどのように加熱加工されると症状がでなくなるのも特徴です。

花粉の種類とPFASが発症しやすい食物

  • シラカバ、ハンノキ:リンゴ、モモ、サクランボ、西洋梨、杏、アーモンド、大豆、ピーナッツ、緑豆もやし、キウイフルーツ、ヘーゼルナッツなど
  • スギ、ヒノキ:トマトなど
  • オオアワガエリ、カモガヤ:メロン、スイカ、トマト、キウイフルーツ、オレンジ、ピーナッツなど
  • ヨモギ:にんじん、セロリ、クミン、コリアンダー、フェンネル、マンゴーなど
  • ブタクサ:バナナ、メロン、キュウリ、スイカ、ズッキーニなど

*花粉症だから必ず口腔アレルギー症候群も発症するとは限りませんが、発症を避けるために抗原となる食物の摂取には注意が必要です。

 上記表は交叉反応性が報告された花粉と果物・野菜の組合せの一部です。また、組合せは、居住地域に飛散する花粉の種類で変化します。

ラテックス-フルーツ症候群

 天然ゴム製品に接触することで発症する蕁麻疹、アナフィラキシーショック、喘息発作などの即時型アレルギー反応をラテックスアレルギーといいます。果物の一部はラテックスと交叉抗原性をもっており、ラテックスに感作された人がある果物を食べると、蕁麻疹・アナフィラキシーのような強い症状を誘発することがあり、ラテックス・フルーツ症候群と呼びます。

ラテックスと交叉抗原性1)を証明された主なフルーツ
アボガド、くり、バナナ、キウイフルーツ、パパイヤ、パッションフルーツ、 イチジク、メロン、マンゴ、パイナップル、もも、トマト、など(ラテックスアレルギー患者の約5割が、これらの食品に対して過敏反応(アナフィラキシー、喘鳴、蕁麻疹、OAS)を有することが報告されている)

1)交叉抗原性:ある食物(抗原)に対する抗体が、他の食物(抗原)と反応(結合)すること

診断

 「アレルギーの有無を調べる検査」と「原因となる食物を探す検査」が必要です。診断は通常以下の順序で進められます。

1.問診 医師が、症状、既往症、家族のアレルギーの有無などについて聞くことで、アレルギーの有無を推測します。
2.検査 問診で推定された食べ物に対する抗体がどの程度あるかを血液検査で調べます。
3.確定 原因と思われる食べ物を除去して症状が改善し、再び食べて症状が出れば、その食べ物が原因と確定されます。

さらに食事日誌をつけることで、食物アレルギーの原因食品を調べることができます。

治療・対策

食事療法

 治療の基本は、アレルゲンを含む食品を除去することです。完全除去が必要な場合と、加熱などにより作用を弱めたり、低アレルゲン食品を使用する場合があります。
 また、経口免疫療法と言って、連日原因食物を少しずつ食べていくことで、原因物質が食べられるようになることを目指す治療法もありますが、現在はまだ研究段階の治療法であり、一般診療としては推奨されていません。

薬物療法

 基本は食事療法ですが、必要に応じ、医師、薬剤師の指導のもと抗アレルギー薬を使用します。
 またアナフィラキシーショックを一度起こしたことがある場合は医師*1の判断により、エピペン®︎注射液という自己注射剤が処方されます。これは医師の治療を受けるまでの間、アナフィラキシー症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助治療剤です。処方された場合、使用のタイミングや使用方法、取扱い上の注意など医師や薬剤師にしっかり確認しておく必要があります。エピペン®︎使用はあくまでも応急処置なので、使用後はたとえ症状が治まったとしても緊急受診が必要です。

*1:エピペン®︎の処方・取扱いには、処方医登録が必要となっていますので、全医師が処方可能なわけではありません。

日常生活での注意事項

  • 体調の調整:
    日頃から規則正しい生活を心がけ、疲れやストレスをためないようにしましょう。
  • バランスのよい食事:
    食事の偏りはアレルギーの原因となる場合があります。
  • 食後の運動に対する注意:
    アナフィラキシー症状は、食後に激しい運動をした場合に起こることがよくあります(食事依存性運動誘発アナフィラキシー)。食物でアレルギー症状を起こしたことのある人は、食後2時間程度は激しい運動を控えましょう。
  • 食品成分の確認:
    重いアレルギー症状を起こしやすい「卵・乳・小麦・落花生・えび・そば・かに・くるみ」の8品目を含む加工食品の原材料と添加物については、表示が義務づけられています。購入するときは、表示をチェックする習慣をつけるとよいでしょう。

子供の食物アレルギー 「最近の研究」

 これまでの「食物アレルギー対策」で常識であったことが、研究により変わってきました。

  • 離乳食を遅らせない
    食物でアレルギーが発症していない場合は、多種の食物を早期に食べた方が食物アレルギーが出にくいと言われています。
    *注意:皮膚トラブル(アトピー性皮膚炎や湿疹)経験がある乳児は、離乳食でアレルギーを発症する可能性があります。医師に相談してみましょう。
  • 食物除去をしすぎない
    原因食物を避けることは必須です。一方、発育のためには食物からの栄養摂取も必須です。これらの事から、食物除去は最低限にしたいものです。食物経口負荷試験を医療機関で受けてみましょう。これは、除去しなくてよい食物の種類や安全に食べられる量が把握できます。
    *注意:アレルギー症状に対応できる医療機関で経験のある医師で検査することが大切です。
  • アトピー性皮膚炎との関係
    「アトピー性皮膚炎が食物アレルギーの原因になる」と考えられるようになりました。スキンケアを十分に行ってもアトピー性皮膚炎が改善しない場合には、食物アレルギーの影響を確かめ、最小限の食物除去を行いましょう。

 アレルギー表示に関する質問や相談は最寄りの保健所、消費者庁などが受け付けています。

食物アレルギーに関する情報は下記から得られます。

アレルギー専門の医療機関は、一般社団法人日本アレルギー学会のウェブサイトから専門医の検索が可能です。
一般社団法人日本アレルギー学会ウェブサイトの専門医検索ページ